「キラ誕生日」



「キラさん!誕生日オメデトウございます!!」

シンが廊下の前を歩いているキラに抱きつきながら言った。

「俺何番目っすか?」
男女問わずもてるキラは誕生日ともなると「おめでとう」の言葉ですらも大漁だ。

「ありがとうシン。ん〜メールとかもあわせると5・6番目くらいかな?」
「身内だけで?一番は?」
「聞くだけ無駄じゃないそれ。」

そういってキラはアスランをチラリと見上げた。
隣にいるアスランは満足そうに笑った後、少し眉をしかめながらそれとなくキラを自分のほうに寄せシンから放す。
シンは少しムッとしながらアスランを見た。
キラはそれに気づいてアスランの方を向き一瞬困ったように笑うが、シンに向き合うと満面の笑みでいった。


「で、誕生日プレゼントは何?」
「キラさん!二個下からたかるなんてひどいっすよ!」
すねるように口を尖らせるシンにキラは笑った。

「冗談だよ冗談。でも今年も誕生日会には来てくれるんでしょう?」
「もちろんっす!アスランさんの料理はめったに食べれませんから!」

毎年カガリとキラの誕生日を祝うためにキラの家を借りてアスランとラクスが主催するパーティーが行われる。
シンは桜の木下でキラと会って以来毎年呼ばれている。

「俺の料理がメインじゃなくてキラとカガリの誕生日がメインなんだけどな…。」
「あっもちろんそれは当然で!」
「でも楽しみだもんねアスランの料理。」
キラはにっこりと笑った。

中学に入ったころから偏食のキラを何とか食べさせるためにアスランは試行錯誤を続けさまざまな料理を作ってきた。
それこそ母親のように。―実際母親以上だったが―
結果「もうアスランの料理しか食べれない!」とキラをうならすほどの腕前にまでなっていた。

「…今日はキラの好きなものばっかりだから。」
「さすがアスランだね!」
「…。」

にっこりとわらってアスランをキラは褒めている。
アスランもそれを照れながら受け止めている。
アスランの腕前が上がったのはこの笑顔が背中を押していたからに間違いない。

この笑顔にやられ続けてあんな腕前にまでなったアスランさんって…。

シンはあきれを超えて同情したくなった。
かといって自分にあの笑顔にやられない自信があるかと問われれば即座に無理と答えるだろう。
かないっこない相手には立ち向かわないほうがいい。








僕の家ってこんなのだったけ…。

派手に飾り付けされた家にキラは扉を開けたまま玄関で呆然と立ち尽くした。
隣にはカガリもいる。

「俺は先にキラの家に行って料理の準備するから、二人は六時までは絶対に家に帰ってくるなよ。」

そうアスランに言われて二人はゲームセンターで時間をつぶした。
時間つぶしには功を奏したがキラになかなか勝てないカガリが癇癪を起こし、キラは体力と精神力を消耗した。
そして極めつけがこれ。

皆がしたんだ…。

「…キラ…これってみんながやってくれてんだよな?」

キラが思っていたことをカガリは口にする。
あぁ双子ってやっぱり以心伝心するもんなんだなぁとキラは変な感想を持った。
少し現実逃避がしたいのかもしれない。

「片づけまで誕生日プレゼントに入ってるかな」
「…とりあえず中に入るか?」
「うん・・・。」


「ハッピバースデーキラ!カガリ!」
部屋に入ったとたんいっせいに叫ばれ、直後に
パンパンと大量のクラッカーが鳴る。

二人が見渡すと、周りにはアスランやシンはもちろんラクス、イザーク、ディアッカ、ニコル、トール、ミリアリアがいた。

「遅かったので心配しましたわ。」
そういってラクスは驚いている二人を席に案内する。

「おめでとうございます。キラ、カガリ。」
ラクスは聖母のような微笑で二人を祝福した。
「あり・・がとう。ラクス。」
「うん。ありがとなラクス。」

「ほらほら、さっさとアスランの料理食べようぜ。何がいい?」
トールが料理を皿に盛り付け始めた。
「俺はウチから酒をもってきたからな!呑むぞ〜!!」
「馬鹿が。酒宴じゃないんだぞ!」
「そうよ!キラとカガリのお祝いだってこと忘れないでよね!」
ディアッカが酒を掲げればイザークとミリアリアがそれに突っ込んだ。


そうはいっても時間がたてば皆酒が回り始めて。ほとんど宴会のような雰囲気になる。
机だけでは足りず床にも空になった缶やら瓶やらが散乱している。
短時間でココまでいけるとは…。
その中でも一番哀れななのはみんなのいいカモになっていたシンだ。
酔いつぶれていた…。
とはいってもまぁ他もさして変らないのだが…。

「シン…。大丈夫〜?」
「…。う゛〜・・・・。」
これは返事ではないと見ていいだろう。
一人料理作りで酒を飲んでいないアスランがブランケットを持ってきた。
「もう寝かせとけよキラ。」
「アスラン…。」
動かないシンにしょうがないとばかりにキラはため息をつき風邪を引かないようにアスランから一つ受け取ったブランケットをかけた。

「カガリ、ほらラクス、ミリアリアも…。」
女三人組は何とか部屋に追い立てた。
残りのディアッカとイザークも半ばうつろな目をしている。
「あぁ、キラさん二人は僕が見ますからもう寝てていいですよ?」
唯一元気なニコルが残りのブランケットをアスランから受け取り笑っていった。

…ニコルも割りと呑んでたと思うんだけど。

ニコルは少しもよったそぶりを見せない。
「じゃお願いするね。」
「ハイ。おやすみなさいキラさん。誕生日にいい夢を。」
「…なんか新年みたいだね。」

ふふっと笑ってキラとアスランは部屋を出た。

「はぁ〜」
「お疲れアスラン。」
部屋を出たとたんため息をついたアスランの方をポンポンとねぎらうように叩く。
「これじゃ祝ってるのか祝ってないのか分からないな。」
ただの宴会のいい口実になってる気がする。アスランがポツリとつぶやくとキラは
「そう?でも僕は皆が僕たちのために時間を割いてまで来てくれること自体が嬉しいから。十分なんだけどね。」
そう本当に嬉しそうにいうのでアスランは何もいえなくなってしまった。

可愛い。

「キラ…。」
「?アス・・…っ」

アスランの唇がキラのそれに重なった。

「なに?突然。」
「いや、可愛いこと言うから。」
「…。何それ」
少しキラの顔が赤くなっているのは酒だけのせいではないだろう。

「嫌だった?」
「そういうふうに聞くのってずるい。」

上目使いにそういうキラもずるいと思うけどね。
アスランは苦笑いしながら尋ねた。

「もう一回していい?」
「・・・・アスランの家でね。」
めったにないお誘いの言葉にアスランは目を瞠はり、そうしてきれいに笑う。

「せっかくの誕生日だからね。ほしいだけ愛してあげる。おめでとうキラ。」
「そんなセリフはかないでよ!」
耳元で色気のある声でささやかれてキラは顔を真っ赤にした。






キリ悪い。きり悪い。
でもこのまま行くと終わらないので強制終了。

キラ!カガリ!誕生日オメデトウ!!

2006.5.18