「前日」


「…ごめんな、キラ」
カガリはこれ以上無いくらい悲痛な顔をして謝る。
「いいけどねカガリ…。」
キラはため息をつくしか無かった。
ちらりとソファーのほうに目を向ける。
そこには焦点のあっていない目を宙に向けて座っているアスランがいた。

昨日「口止めされている」といってから一つも動かなくなったアスランをカガリはキラの家まで届けた。
キラならばなんとかしてくれるであろうとの考えの元ではあったが、朝来てみると昨日となんら変わり無いアスランを見てカガリは絶句した。
それでもキラへの謝罪はなんとか搾り出す。

「とりあえず、もう今日は使い物にならないから、カガリは仕事にいきなよ。」
キラはさらりとひどいことを言うがカガリは気にする様子も無く「本当にすまない」というと家を出て行った。
キラはカガリを見送ると深呼吸を一つする。
今からする仕事は骨が折れるのだ。

ソファーに座っているアスランの前に顔を同じ高さにするように座るととりあえず名前を呼んでみる。
「アスラン?ア〜ス〜ラ〜ン〜?アスラーン!!お〜きろ!!」
しばらく呼んでみるが一向に意識が戻る気配が無い。
「しょうがない次は…」
あれやこれやと色々試してみる。
しかしそれもいつかは尽きる。
15分もしないうちにキラは考えられる限りのことは一通りやってしまった。
「まったく・・・・君は…。」
はぁ〜と長いため息をつくと意を決したようにアスランに向き直る。
いまだに焦点のあっていない親友以上恋人未満を見ると何とも言えない気分になってくる。
「これは最終手段なんだけどね…」
というとキラは両手をアスランの顔に近づけていく。

右手は鼻に。
左手は口に。

そうしてアスランの息を止める。
「どれくらいもつかな?」」
少し声を弾ませながらキラは待つ。
しばらくするとアスランの顔色が青くなってきた。
それからアスランの目が少し見開かれると、いきなりアスランの両手がキラの手をつかみ鼻と口からはがす。
そのままの勢いでアスランはキラを床に押し倒した。

あぁ、まずい。軍人だった…。

キラはアスランの無意識であろう行動に舌打ちしたい気分だったがそれもかなわなかった。
なにせ押し倒されたときに盛大に音を立てて頭を打ったのだから。
それどころではない。
「・・・キ・・ラ・・?」
アスランは押し倒したものを見下ろしたがキラだと気づくと、あわてて抱き起こした。
「す、すまないキラ。」
「いいよ。でもやっと気づいたね君。」
頭を押さえながらキラは笑っていった。
アスランは戸惑ったようにキラを見るとためらいながら尋ねた。
「・・・・キラすまないんだが…なんで俺はここにいるんだ?」
よく見るとここはキラの家。
確か今日は自分の家でキラと食事をして仕事に出たはず。
それからハタと気づく。
…仕事場からの記憶が…ない?
考え込むようなアスランに苦笑いしながらキラは告げる。
「全くだけどね。君はラクスがカガリに口止めしてたことをしって、動かなくなっちゃったんだよ。」
それでカガリがウチにつれてきたってわけ。
キラの言葉を聴いて段々思い出してくる。

ラクス…口止め…ラ・・ク・・

「ああ!!」
アスランは大声を上げて思わず立ち上がった。
「思い出した?」
「キラ!!えーと、明日?何があるんだ!?」
チャンスは一度きりなんだ。出来るだけ情報を集めたほうがいいに決まってる。
アスランはまだ床に座っているキラに向かって必死の形相で叫んだ。
「本当にわからないんだ?」
少し寂しそうに言うキラにアスランは首をかしげる。
「キラ?」
「まったく、しょうがないから教えてあげるよ。運良く僕はラクスから口止めされて無いしね。」
からかうように笑いながらキラは言った。


「ラクスとの約束はいつ?」
「…明日だろう?」
「明日は何日?」
「1・・・8・・にち。」
「・・・・・・・・何月の?」
「ごが・・・っっ!!!」
「気づいたみたいだね?」

「すまないキラ!!」
これ以上無いくらいアスランはあわてて言葉になっていないような謝罪を繰り返す。
あまり見ることの無いアスランの姿にキラはすっかり許してしまう。
きれいに自分とカガリの誕生日を忘れていたアスランに対してちょっと恨みがあったのだがそれすらも吹き飛んでしまった。
どうしようもないなぁと思いながらキラはアスランに向かって笑いかけながら言う。

「ほら答えが出たならラクスにいいなよ。”チャンスは一度きり”なんでしょう?」

「!ありがとうキラ!!またあとで来るから!!」といって走って家を出て行くアスランを見送りながらぼんやりと思う。
ラクスあたりには「甘いですわ」といわれるだろう。
でもしょうがないのだ。
アスランがキラに甘いように、キラだってアスランに甘いのだから。



「当日」

「お迎えにあがりましたわ、キラ」
扉を開けるとラクスがふわりと笑いながら迎えに来ていた。

「これからどこに?」
「色々企画をご用意してまして。とりあえずはカガリを迎えに行くので車にお乗りくださいな。」
言われるままキラは車に乗る。


「お誕生日おめでとうございます。」

車が発進するなりラクスはキラに告げた。そして横に置いてあったプレゼントを渡す。
どうやら初めから計画済みのようだ。
「ありがとうラクス。」
キラはそれを受け取ってにっこり笑う。
それにラクスも微笑み返して「今日の企画で一番最初に言いたかったものですから、私がお迎えをしたんですのよ?」と裏話をいうと、キラは重ねてお礼を言った。
「本当に、色々企画してくれてるみたいで、嬉しいんだけど、悪い気がする。」
キラが素直に多少心苦しいというと、ラクスは何を、というような顔で
「キラがお気になさることなんて無いですわ。だって私達が祝いたいのですから。」
ね?という。そういわれればキラは黙ってその好意を受け入れるしかない。
心苦しいという気持ちと同時にそれ以上の嬉しさがこみ上げてきた。
幸せだと思う。
当然のように祝ってくれる存在がいるということが。
「それにしてもキラは甘いですわ。」
少しの沈黙の後、ラクスはキラに向けて人差し指をびしっと指した。
「あぁ、アスランのこと?」
「そうです。」
ラクスがすねたように言う。

言われると思ったけどね。

キラはくすくす笑いながら言った。
「まぁ、始めはね、僕もちょっとむかついたから言わないでおこうと思ったんだけど、さすがにあそこまであわてた顔されるとちょっとね。」
かわいそうかなぁと思ったのだというとラクスは案の定きっぱりと言い放つ。
「自業自得ですわ。」
予想していたとはいえ、ちょっとあんまりないいようにキラは苦笑いを禁じえなかった。

「でもしょうがないかな?」
キラが何かを思いついたこのようにいうのでラクスは首をかしげる。
「なにがです?」
そう聞くとキラはラクスのほうを向いて微笑みながら言った。

「僕がアスランに祝って欲しかったから。」

キラがあまりにもきれいにわらうのでラクスは一瞬見とれて声が出なかった。
「どうかした?ラクス?」
ラクスが一瞬黙ったのでキラはいぶかしげにラクスの顔を覗き込む。
キラの笑い顔に見とれていました。とはいえなかった。その笑顔を起こさせた男のおかげだと思うと少し癪だったので、代わりの本当のことを言う。
「アスランには言わないで置きますわ。贅沢すぎですもの。」
作ったようなすねたラクスの顔にキラは笑った。




コンナ祝い方ってあるのかよ!!そんな感じでスミマセン。
アスキラじゃないといわれてもしょうがないのですが、アスキラのつもりで本人書いてました。
いまもそのつもり。夜二人っきりで祝うんですよ。(そこを書け)
↓以下sss掲載時のコメント
一番重要な企画シーンが無いですが気にしない。
ただこの話のメインはアスランが忘れている。というアスキラサイトではありえない設定なので、これでいいんです。
そこはかとなくキララク好きが出てるところが。

ホントにな!

2005.11.4  sssより移動改稿。