恋11 ―VD― 「おいしいよ。キラ。」 「うん、ごめんねアスラン。」 キラは申し訳なくなって俯いた。 あぁ料理が上手な相手にあげるのって・・・!! いたたまれない雰囲気の中アスランはチョコレートケーキを完食した。 と言ってもホールの六分の一もない程度の大きさだ。 「謝ることじゃないと思うけど?おいしかったし。」 コーヒーを飲みながら言う。 去年もらったチョコレートも今年のケーキもおいしかった。 何をあやまることがあるのか。 「だって、アスランのがおいしかったから・・・。」 僕絶対負けてるし!! そう。 14日渡そうとおもってキラがアスランの家に行くとなぜかアスランに渡されたチョコレートにキラは愕然とした。 「キラ、これ。」 はいとラッピングもきれいな箱を渡された。 「・・なに?」 「開けてみて。」 笑いながら言うアスランに首をかしげながらキラは開ける。 「チョコレート・・・。」 中身はチョコレートトリュフだった。 「わぁおいしそう!」 「バレンタインに俺も渡したいとおもって。好きな人に渡す日だから。」 「ありがとうアスラン!!ほんとおいしそう。どこでかったの?」 「あぁ・・・・。」 アスランは目を泳がせる。 「アスラン?」 促すようにじっと見ると一瞬アスランがたじろいだ。 そんな無防備な顔で見つめるのは反則だ!! 結局アスランは言わないで置こうと思ったことを口にせざるを得なかった。 「あ〜・・じつはそれ俺が作ったんだ。」 「え?」 キラは予想外の言葉に目を丸くする。 「初めてだから自信ないけど試食したらまぁ食べられない物でもないぐらいで・・・。」 アスランがぼそぼそというがキラは一つも聞いていなかった。 これではじめて・・・? だって見た目売り物と変んないし! これもらったら・・僕、あげなくてもいいんじゃ・・・ううん!むしろあげたら失礼なんじゃ!! 「キラ?」 なんとなく聞いていないのが分かったのかアスランが名前を呼べばキラははじかれたように顔を上げた。 「ご、ごめんアスラン!僕今日バレンタインだって忘れてて!!ま、またくるね。チョコレートありがと!」 そういって鞄とチョコレートを持って足早に部屋を出て行く。 「ちょっ!キラ!?」 急に何があったのか分からないがここで返すわけにもいかない。 アスランは玄関でキラを捕まえた。 「どうしたんだ?」 「なんでもない。ただ、僕忘れちゃったのにアスランくれてわるいなぁって。」 「忘れて・・・?」 「う、うん。」 俯いてキラは言うがアスランは納得しない。 「でも、昼にイザークたちには渡してたんだろ?」 「っ・・・。」 自分は外回りで居なかったが毎年恒例のチョコ渡しがあったのは渡された本人たちがやけに自慢していたので知っていた。 それで自分の分ももちろん期待していたわけだが。 「俺のはないんだ?」 さすがに口にするとむなしい・・・。 アスランはため息をついた。 それにキラがびくりと反応する。 その様が捉えた手から伝わった。 あぁ。でも渡せないよ・・・。 でもアスランが・・・。 アスランの声にキラはさすがに申し訳なくなった。 「ほ、ほんとはね・・・。」 キラがボソリと呟く。 「あるのは・・・あるんだけど。」 「え?」 今度はアスランが目を丸くする。 「でも・・・。」 「でも?」 「アスランの見たら渡せないよ。」 なきそうになりながら呟くキラにアスランは驚きを隠せない。 「なんで?」 どうしてそうなるのかよくわからない。 もらえない理由が自分になるとなるとますます分からない。 泣きそうなキラを慰めなくてはと思うが自分が泣きそうだった。 「アスラン僕のなんかいらないでしょ?」 「は?」 どの世の中に愛しの彼女からチョコレートが欲しくない男が居るのか。 「ちょっとまってキラ。一度整理しよう。」 混乱の極みの中にいるアスランは努めて冷静に言った。 失敗すると最愛の彼女からチョコレートがもらえないかもしれないキケンなミッションだ。慎重に行きたい。 「俺にはチョコがあるけど、渡せない。」 「うん。」 キラは頷く。 「その理由は・・・・。」 「アスランのを見たから。」 「そう、俺の・・・チョコレートを見たから。」 そうなると意味が分からない。 「なんで俺のを見たら俺には渡せないんだ・・・?」 「・・・・。」 ここまでたどり着くとキラは黙り込む。 「キラ?」 ことさら優しく答えてくれるように促す。 「・・・だもん。」 「え?」 小さくて聞き取れずにアスランは聞き返す。 「だってアスランの方が僕よりも上手なんだもん!!」 え? 言われたことを飲み込めない。 「僕なんかのあげたら失礼だよ。アスランあんなに上手な物くれたのに。僕のなんて全然ダメで・・・。だから。」 つまり、なんだ? 俺より下手な物は渡せないってことか・・・? 「恥ずかしくってあげられないよ!」 つまり、それは・・・・。 自分のせい・・? 「ごめんね、アスラン。」 あぁ。今にもなきそうだ。 そんな顔させたくて渡したわけではもちろんない。 喜んでくれるとばかりおもって作ったのだ。 そんな顔させているのが自分のせいかと思うとアスランはたまらず抱き締めた。 「ごめん。キラ。気づかなくて。」 「ううん。アスランはなにも悪くないよ。だって僕のわがままだもん・・・。」 そういうキラの声は少しくぐもっている。 キラは渡せないかもしれないが渡されないのも俺は嫌だ・・・。 「キラは嫌かも知れないけど、やっぱり俺はキラから今日欲しいよ。」 「・・・。」 「皆もらってるのに俺にないのはちょっと悔しい・・というかかなり妬く。」 「え・・?」 「なんで俺だけってさ・・。」 「ごめ・・・。」 アスランに抱き締められながらキラは謝った。 最悪だ僕。 僕のわがままでアスランにこういうこといわせるのって。 自分のことばっかり・・・・。 「アスラン・・。」 「ん?」 「絶対にアスランの作ったものよりおいしくないと思うけど・・・。」 「うん。」 「食べて、くれる?」 腕の窺うように言うキラが可愛くてアスランは軽く口付ける。 「ありがとう。」 「う、うん。」 嬉しそうに言われてキラは照れて俯いた。 「ほんと、ごめん。」 「だから謝ることないよ。」 食べた後おいしいといわれてもキラは申し訳なさでいっぱいだった。 むしろわがままが今となっては恥ずかしい。 「来年は素直に渡すから。」 「ありがとう。でもわがまま言ってるキラも可愛かったよ?」 「・・・っ!」 キラは顔を赤らめた。 アスランのばか! 結局もらえた余裕かアスランはキラをからかう。 どうしてそういうことばっかり言うんだ! 悔しくて少し仕返しをしたくなってキラはボソリとつぶやく。 「来年はないかも・・・。」 「えぇ!?」 バカップルのバレンタイン・・・。 シリアスのかけらもいれるつもりは・・・。いやシリアスでもないですね。 あれですよ、馬に蹴られる類です。 しかしキスしすぎだこのシリーズ。 2008/3/14拍手 2008/6/19改稿・移動 |