恋4



可愛くラッピングされた箱。
それをキラはじっと眺める。

「チョコとか渡しても大丈夫かな?」

大学時代の友人兼仕事仲間のイザーク・ディアッカ・ニコルには毎年恒例のように作ったが、今年はお隣さんのアスラン・ザラにも作ってみた。
イザークの下についた出来すぎた部下がまさか去年越してきて、なおかつ一目ぼれしたアスラン・ザラだとは。

世間って狭い・・・。

この間助けてくれた―といってもアスランの下心の結果―お礼とをあわせてみたのだが。(受け取ってもらうために)
果たして受け取ってくれるかどうか。

ザラさんのことだし受け取ってはくれると思うけど…。
でもあんなにかっこよかったらやっぱりいろんな人からもらうよね?
迷惑にならないかな…。

四つ出来たバレンタインチョコレートを見てキラは小さくため息をついた。





「あ〜明日かぁ。」
気分転換のように背伸びをするディアッカがふともらした。
「何がだ?」
パソコンから目を逸らさないままアスランは尋ねる。
話を展開させるためではなく、むしろ早く仕事をしろというような声音だった。
それに気づいているだろうにディアッカはニヤリと笑いながらアスランに近づく。
「何ってバレンタインだよ。もてもてのザラくん。」
「あぁ…。」
興味いなさそうにアスランはつぶやく。
バレンタインは昔から疲れるイベントの一つだった。

またあの時期が来るのか…。

「あからさまに面倒だって顔しないでくれる?」
「…すまない。」
自分には面倒でもディアッカにとっては楽しみなのだろう、アスランは素直に謝った。
「俺だってバレンタインだから浮かれてるやけじゃないぜ?」
「?」
「そりゃ同じ課の女の子が義理でくれるけど、毎年楽しみなのはキラがくれるやつなんだよな。」
「え!?」
アスランはそれまで休みことなく動かしていた手を止めディアッカのほうに顔を向ける。

お、食いついてきた。

心の中でディアッカはほくそえむ。
ただの隣人同士だが、お互いに何かしら思いがあるらしく、見ているこちらとしてはとてつもなくおもしろい。

感情の起伏があるアスランなんてそうそう見れるもんじゃないし。

得意げにディアッカは恒例行事の内容を話す。
「そう、キラ。大学時代から俺とイザーク、ニコルには毎年手作りのチョコくれるんだぜ。」
それがおいしいのなんのって。
「…。」
「何その顔?」
アスランのジーっとみてくる恨めしそうな表情が目に付いた。
しかし本人に自覚が無いのか、それとも些細な変化なのかアスランは何を言ってるんだとばかりに不思議そうに首をかしげた。

無自覚かよ!!

「まぁ明日もらったら見せてやるよ。」
食べさせてやるとはもちろん言わない。
「明日来るのか?」
それともわざわざ家まで行くのか。
尋ねたアスランにディアッカは
「仕事の締め切りをあわせてあるからな。」
キラは出来た仕事と一緒に持ってくるはずだ。と答えた。
「用意周到だな。」
「毎年のこと。」
少し低めに言われた嫌味もどこふく風、ディアッカは楽しそうに応じた。



お昼ごろ来てください。ラウンジで一緒にご飯食べましょう。

ニコルから朝にそうメールが来ていたので、昼にあわせて家を出た。
前にラクスに見立ててもらった服を着て出来上がった仕事と、とりあえず四つのチョコレートを持って。

いつも通り皆に渡すだけなのに緊張する…。

はぁとキラは会社に向かう列車の中でため息をついた。
確かにいつも通りではあるのだが、今年は淡い恋心を抱いているアスランの分もある。

へ、変に思われたりとかしないよね?

うざがられたりなんかしたら最悪だ。
なまじ隣だから逃げ出すことも関係を修復することも難しい。

うぅ〜うまくはいかなくていいけど、悪くもなりませんように。

ただひたすら後ろ向きに祈った。


「キラさん!こっちです。」
キラが会社に着くと受付の前にニコルがいて、手を振っている。
「ごめん。待たせたかな?」
「いえ、大丈夫です。仕事がキリのいいところまでいったのが早かったので。」
そういってニコルはそれとなくキラの荷物を持った。
「あ、ありがとう。」
「これぐらい当然ですよ。」
ニコルはにこりと笑うと先に進む。

昔からこういうの様になってるよね。

キラはニコルをちらりと見上げる。
昔からフェミニストの気があったように思う。
大学時代のことを思い浮かべると、そういえばイザークもあのディアッカですらエスコート慣れしていてなおかつそれに違和感もなにも持っていなかったような気がする。

い、家柄…?
じゃぁザラさんも?

そういう格式のある家なのだと。
家同士で昔から付き合いがあったのだといっていた。
ということはそういうことなんだろう。

うわぁ似合いすぎる…。

エスコートするアスランを想像してキラは頬を赤らめた。

「キラさん、着きましたよ。あれ、顔赤くないですか?」
「え?そ、そんなこと無いと思う。ほ、ほら、外は寒いけど中は暖かいからじゃないかな。」
タイミング悪くニコルに突っ込まれたキラは差し障り無いことでごまかす。

「お〜キラ来たか!」
「早く座れ。」
「ディアッカ!?イザーク!?」

案内された席にはすでにディアッカとイザークがいた。
いやそれだけじゃない。
「ザ、ザラさん…?」
「あ、こんにちはヤマトさん」
さっきまで脳内にいた人が目の前にいる。

ついてるのかついてないのか分かんない…。

自分は明らかに驚いた顔でいるのにアスランはいつもの笑顔で返してくれた。
呆然としたキラにニコルは席を勧める。
「まぁ気にしないでキラさんとりあえず座ってください。」
「あ、うん。」
そういって引かれた椅子に座る。ちなみに隣はニコルとイザークで、前にディアッカとアスランが座っていた。

あぁ…緊張する…。

何とも奇妙なランチタイムが始まった。






「ご馳走様でした。」

キラが手を合わせるとタイミングよくスタッフが食器を下げに来た。
その空いたスペースに持ってきた袋を乗せる。
「とりあえずニコル、これ今回の仕事ね。」
はい、とプログラムの入ったCDを渡す。
「ありがとうございます。」
「多分それで大体のことはカバーできると思う。」
「相変わらずすごいですね…。」
「そんなこと無いっ!」
とあわててキラは否定する。
「だからこそのフリーだろう。」
「イザークも!」
悪乗りしてくる隣に軽く突っ込みを入れる。
「いやぁでもキラのプログラムで今成り立ってる部署もあるしな。」
「ディアッカまで!」
なんなの今日はもう。
とキラは赤くなりながらコーヒーを飲む。
それでも会話はキラのすごさをアスランに話す物になっていった。

「アスラン、キラさんはあの技術部のメインOSを造ったんですよ!」
「アスラン!キラは社内のネットワークシステムの構築の中心だったんだぜ。」
「キラは引く手あまたでな、あのオーブやクラインも本契約を結ぼうと必死だ。」

改めて優秀さを確認させられたアスランがキラのほうを見るとキラは俯いていた。


「ヤマト・・・さ・・?」
「…そんなに言うなら、もう今年はないからね。」

終わりそうに無い会話にキラは切れ気味な低い声で言った。
”何を”とは言わない。

「悪かったキラ!」
「すみませんキラさん!!」
「マジ悪ぃキラ!」

三人がいっせいに言うとさすがのキラもしょうがないなぁとあきれるしかない。
もっともその光景を一番あきれてみていたのはアスランなのだが。

「はい、チョコレート。」

キラは紙袋の中からチョコレートを取り出して、三人に順番に渡す。
「今年もサンキュ。」
「毎年思うけどみんなもてるのに、大丈夫なの?」
「キラさんからのは例外です。毎年一番に食べてますよ。」
「他のやつからはもらってないからな。」
「…ここって、ありがとうっていうとこかな。」
微妙にたかられている―もちろんそんなことは無い―気がするとキラはおもった。

そんなチョコレートの一連をアスランはどこかボーっとしながらみていた。

当然だけど俺にはないよな…。
というかあいつらの前ではキラ(脳内の呼び方)ってあんなに自然に笑うんだ・・・。
俺の前では緊張した顔しかしないのに。

アスランの脳内はぐるぐると悪い方向にばかりまわっていて、キラが会話中にも何度もチラリと見ていることに気がつかなかった。





「休憩も終わるからそろそろ行くか」

イザークが立ち上がるとそれに倣ってみんなバラバラと立つ。
ラウンジを出ると、ニコルがアスランの背中を押した。

「アスラン、キラさんを出口まで送っててください。」
「えぇ!!いいよニコルそんな。ザラさんだって仕事でしょう?」
いきなりの提案にキラはあわてる。
「休憩はもう少しあるし、送るくらいどうってことないって。」
ディアッカがそういうとアスランも同意する。
「俺はかまわないが。」
「で、でも。」
「それこそ時間がなくなる。アスランも早く連れて行け。」
「イザーク!!」
せかすような言葉にキラはさらにあわてた。
しかしこれ以上拒否するとアスランに失礼になる。
「う〜」とキラがうなっているとアスランが隣に立って荷物を持った。
「ヤマトさん?」
「あ、は、はい。すみません。」
「じゃ、そこまでだけどいこうか。」
アスランが先ほどのニコルのように先に立つと歩き出す。
キラはソレについていった。
後ろでは三人が「また〜」とか言っていたが緊張で耳に入らなかった。





出口は本当にすぐそこでキラはアスランの背中を見て歩いているとあっという間だった。
も、もう着いた…。
何も話してないのに!!
キラは後悔の渦に巻き込まれた。

「じゃぁここで。」
アスランがキラに荷物を手渡す。
「す、すみません。時間もないのに。」
キラは何度も頭を下げた。
「これくらいどうってことないですよ。」
アスランの笑顔に赤くなる顔をキラは俯いて隠した。
そして先ほど渡された自分の紙袋が目に入る。

あぁ、どうしよう。これって渡すいいチャンスだよね。

どうしようと考えながらキラが俯いたままでいると頭上から「それじゃ俺行きますね。」というアスランの声がした。
それに反応してキラは顔を上げるとアスランはすでに少し会社に戻りかけていた。

「あ、あのザラさん!!」

戻りかけたアスランをキラは呼び止める。
勢いよく袋からチョコレートを取り出すとアスランに向けて差し出した。

「これ、前のお礼もこめてのチョコレート何ですけど!!」
「俺…に?」
「は、はい。」

うわ。
アスランは思わず赤くなる顔を隠すように口元に手を当てた。
「ありがとう」
アスランは受け取ると笑った。
今まで見た中で一番の笑顔にキラも顔を赤くする。
「そ、それじゃ僕もういきますね!!」
失礼します。と早口にいうとキラは走り出した。



どうしようどうしよう!!
受け取ってもらえた。
それにあの笑顔。
キラは痛いくらい波打つ心臓に手を当てながら走った。








よく分かんない上に(いつもですが)無駄に長い。
アスキラ率低いっていうかこの人たちのろいっていうか。(私のせいですが)
次ぐらいにくっつくといいでねぇ。
前に起こった出来事は今度拍手にでも

↑はsss掲載時。
時間軸ばらばらで上げてすみません。

2007/8/23 sssより移動・改稿