「恋―アスラン誕生日―」 「え?アスランの誕生日?」 キラは出された紅茶を思わず落としそうになった。 あらあら気をつけてくださいな。とラクスは言いながらお菓子を勧める。 ありがとうといいながらキラは軽く混乱していた。 アスランの誕生日…って? 今話が出るってことはえーと?なんだつまり・・・。 「近いの?」 「何がです?」 「アスランの誕生日だよ。」 「…・・・・。」 「ラクス?」 ラクスはお茶を一口含む。 そしてことさらゆっくりと口を開いた。 「…もう終わりましたわ。」 「・・・・・え・・・?」 「先月の29日だったんですの。」 「・・・・。」 「本当に何も知らなかったのですか?」 あまりのことに絶句して固まったキラに心配そうにラクスが言う。 「だって、アスランそんなこと、一言も…。」 「あぁ彼にとってはあまり良いことではないですから・・・。」 「でも、でも・・なんかあっても・・・!」 ラクスを軽く非難するようにキラは声を荒げる。 「すみません。私が気を利かせていればよかったでが・・・。」 「…・・う、ううん。ごめんラクス。僕こそ気を使わせちゃって。」 思わず関係のないラクスをせめてキラはすこし自己嫌悪に陥った。 あぁでもどうしよう!! 知らなかったっていっても、僕はこれもらちゃってるわけだし、何もあげないっていうのは…。 キラは胸元に光るエメラルドにそっと触れる。 あのときのアスランの顔を思い出す。 ううん、そうじゃなくても祝ってるんだって伝えたい!! 「ラクス!ごめん僕もう帰るよ。」 「えぇ、帰りは送らせますから、お気をつけて。」 「またラクスの都合のいいときに呼んで。」 「はい。」 キラの背中を見送りながらラクスはしくじったと心で舌打ちする。 ただキラからの誕生日プレゼントでうろたえたアスランがどんな風だったか知りたかっただけだったのだ。 それが・・・渡してなかったなんて!! ラクスは冷めた紅茶を一口すすった。 「『会いたい。』」 キラからの強烈なメールにアスランは思わず立ち止まった。 それが降車したばかりのホームだということを忘れて。 当たり前のように人がぶつかり我に帰る。 「すみません。」 それでもどこか虚ろのまま同じように歩きながらメールを返す。 「『今駅についたからすぐいける。』」 比較的すぐに帰ってきたメールにキラはホッといきを吐く。 タイミングとしてはいいのかどうかわかんないけど、とりあえず今日中には渡せるね。 机に置かれた物を見ながら『家で待ってる』とメールを返した。 お茶用にお湯を沸かしているとインターホンがなる。 「いらっしゃい。」 出迎えるとアスランが少し息を切らしながら立っていた。 その息も整わぬ間に 「どうしたんだ?」 明らかにあせっているアスランにキラは驚く。 「え、と。と、とりあえずあがって?寒かったでしょう?お茶入れるし。」 「あ、あぁ。」 『会いたい』とあった割には落ち着いているキラにアスランは拍子抜けする。 なんだったんだ? 理由はなくても会いたいというのならば大歓迎だが、キラがそんなこというはずはないということを付き合って約半年でよくわかっている。 手際よく―面倒くさがりだが手際はいい―出されたお茶で体を温めているとキラがそわそわしながらアスランを見ている。 「キラ?」 「あ、えと紅茶大丈夫?」 「あぁいつも通りおいしいよ。」 「そ、そかよかった。」 「…」 「…」 互いに言葉なく沈黙が続く。 なんで呼ばれたのか聞きたいけどキラがやけに落ち着かないから聞かないほうがいいのか・・・? いやむしろこういうときは積極的に聞くべきか? あぁ僕から呼んだのに無言って最悪だ!! でもどう切り出せばいいのかな・・・? 先月誕生日だったんだって? 先月誕生日ってなんで言ってくれなかったの? って・・・・僕が悪いのに責めてどうする!! 「キラ…?」 「えっ!?」 沈黙を先に破ったのはアスランのほうだった。 完全に自分の世界で考えていたキラは驚いて大きな声を上げてしまった。 「ご、ごめん。何?アスラン。」 「あ、いやこっちこそ驚かしてごめん。あ〜用事はなんだったのかなと思って・・・聞いてもいいか?」 「っ!」 あぁそりゃ変だよね呼んでおいていつまで経っても言わないって…! でもなんていえば! つかアスランそんなにじっとこっちみないでよ!! ・・・・・うぁあ。もう正直に言うしかない!! 「ごめん!ぼく先月の29日がアスランの誕生日って知らなくて、僕はもらったのにアスランに何もしなくてほんとにごめんなさい。」 思いっきり頭を下げる。 キラは泣きそうになるのを堪えながら早口気味にいう。 「これ、誕生日プレゼントなんだ。」 そういってCD−ROMを差し出す。 「え?」 「とりあえずなんだけど、他にも探すからもうちょっと待って欲しいんだ。でもなにか渡したくて。」 「・・・・これは?」 「アスランのパソコンのセキュリティシステムにって、完全にオリジナルだからかなり安全性が高いと思うんだけど。一緒にウィルススキャンとかも入ってて、だからどうかな?」 アスランは手渡されたCD−ROMをじっとみた。 つまり、トップクラスのセキュリティシステムが個人用に手に入ったということか・・・? 何処の企業ものどから手が出るほど欲しいだろう、キラ・ヤマトのプログラム。 キラはたいしたことはないと言ってもかなりの価値があるものだ。 確かに誕生日プレゼントとしてはかなり色気がないがそれがかえってキラらしかった。 思わずアスランは笑った。 「ありがとうキラ。嬉しいよ。」 「でも、本当に知らなくて、ごめんね。しかもそんなプレゼントだし!!」 「それはいいよ俺だって言わなかったしね。あんまり好きじゃないんだ誕生日。面倒なことばっかりあって。」 当日会えなかっただろ?といわれてキラは29日を思い出した。 そういえば確かに会えなくて家で過ごしてたや。 「親の関係でね始終堅苦しいパーティーみたいなのがあるんだ。」 「そ・・うなんだ。」 「いつも抜け出すんだけど今年はそうはいかなくて、まいったよ。」 「大変、だね・・。」 アスランがあまりにも大切にしてくれるから思い出すことなどなかったが、自分と住む世界が違うのだということをすっかり忘れていた。 それなのに僕あんな要るか要らないか分からない物あげて…。 自分のダメさに思わず俯く。 「キラ?」 「ごめんねアスラン、ほんとにごめ・・・。」 「キラ!?」 涙声のキラにアスランは思わず顔を上げさせた。 案の定涙を溜めた目があった。 突然のキラの涙にアスランは慌てる。 思わず抱き締めて頭をなでる。 「なんで、突然・・?」 「だって、アスランと僕の世界は違うのに、僕があげた物ってさらに違う感じがする。」 「世界が違うって・・・関係ない!それに俺は嬉しかったよ?」 「でも僕こいび・・・となのに!もっと伝えたいのっ。」 「っ!!」 思わずアスランはキラのくちびるを塞いだ。 「あんまり可愛いこと言わないでくれ…。」 自制が利かなくなる。 「だって。僕だっておめでとうって、生まれてきてくれてありがとうってそのとき伝えたかったんだ。」 アスランの腕の中に抱え込まれてキラは呟く。 「遅くったっていいよ。キラが言ってくれるだけで何より価値がある。」 「でも・・・。」 アスランはさらにつよく抱き締める。 「じゃぁ、来年言ってよ。来年、一番にキラが言って?」 来年の約束。 それまでのこれからの時間共にすごす約束。 「いいの?」 「キラが言ってくれれば他はどうでもいいよ。」 「・・・じゃぁ来年。僕が一番に言ってみせるから。」 「待ってるよ。」 そういって軽く音を立ててキスをする。 「・・・・とりあえず今日泊まっても良い?」 「!!・・・・ど、どうぞ。・・・え〜とじゃとりあえずの誕生日プレゼント・・・・ぼく・・?」 顔を赤らめながらいうキラの様子がほほえましくて笑ってしまう。 「十分すぎるね。」 「た、たりないとおもうよ?」 だ、からね? そういってキラはアスランの首に腕を回して耳元で囁く。 「誕生日おめでとうアスラン。」 そうしてそのまま唇に口付けた。 今更ですが誕生日。 読み直すとめちゃくちゃ恥ずかしいだけのしろものです。 2008.3.14 拍手より再アップ |