「狂争」 「カガリ」 カガリは部屋の窓から夜空を見ている。 キラの呼びかけには応えない。 「カガリ」 今度は横まで来て呼ぶ。 そうしてやっとカガリがキラを見た。 それでも何も言わずカガリはまた空に目をやる。 「アスランのこと考えてるの?」 同じように空を見ながら尋ねる。 カガリは一瞬びくりと肩を揺らすが何も言わない。 「忘れちゃいなよ」 出来るだけ軽く聞こえるように言う。 「あんなやつ。カガリにはふさわしくないよ。もっといい男がいるって。」 「…そんなこと分かってる。でも…。」 やっと声を出したかと思えばそれは嗚咽交じりだった。 「泣かないでよカガリ…。アスランなんかのことで泣くなんて、涙がもったいないよ。」 「…」 カガリは応えない。応えられないといったほうが正しいかもしれない。 キラははぁ〜とため息を一つついた。 「ねぇアスランってさ、ムカツカない?」 カガリはしばらく泣いていた。 それをキラは沈黙を保って見ていたがふと漏らす。 カガリは肯定するように頭を縦に振った。 それを見たキラはわが意を得たりといわんばかりにすごいことをさらりと言う。 「カガリ、アスラン殺したくなったら言ってね。カガリが手を汚すことなんて無いから」 「・・・・なん・・のはなし・・だ」 さすがにカガリはキラの方を見て聞き返す。 しかしキラは同じ顔のカガリが見とれるほど凄艶な顔で微笑んでいた。 カガリは息を呑む。 その顔は物騒にも程があった。 「本気だよ。そしたらカガリは僕の物なるよね?」 アスランなんかより僕を選びなよ。 前から何度も言われている言葉だった。 「私たちは・・きょう・・だいじゃないか」 なんども同じ言葉で拒絶する。 そして何度も同じ言葉が繰り返される。 「別に僕はかまわないよ?近親相姦って言うのもそそるよね?」 「っ。バカじゃないかお前!!」 「バカだよ。…ねぇカガリ…。どうなのさ。」 今までは終わっていたやり取りが今夜は続けられる。 「それでもっ!!」 カガリは必死にキラから与えられる気まずいプレッシャーに負けないように言い返す。 「私はアスランが…好きなんだっ!!」 どんなにひどい扱いをされようが変わらない思いをカガリはキラにぶつけた。 琥珀と紫水晶が交わる。 しばらくにらみ合いのようなものが続いたが、先に折れたのはキラだった。 はぁーと長いため息を付くとうつむく。 「バカじゃないのカガリ…」 僕を選べば幸せにしてあげるのに。なんで茨の道を行くんだろうか。 そう思いながらポツリとつぶやく。 カガリは聞き逃さずに、先ほどよりもしっかりした口調で気持ちを伝える。 「あぁバカだ。でも、好きなんだ。どうしようもなく」 それを聞いてキラは苦笑いをする。 「ほんとしょうがないね。でもバカな子ほど可愛いっていうから僕もしょうがないのかもね。」 「なにをっ!?」 ばかばか言われてカガリも言い返す。 「姉に向かってバカバカ言いすぎだ!!」 「僕は妹だと思ってるから、言い過ぎでもかまわないと思うよ。」 「姉だって言ってるだろう!!」 先ほどとは打って変わって和やかな雰囲気の言い合いが始まる。 「まぁ、姉でも妹でも、カガリを好きなことには変わり無いからいいけどね」 「気にしろよ!お前は!!」 不毛な会話は続いたが、今度折れたのはカガリだった。 「もういい!私も忙しいんだ。休む!お前も休め!」 「そうだね。カガリも忙しいもんね。…ゆっくり休みなよ?」 そういってキラはカガリに近づくと唇を軽く掠め取る。 「お休み」 呆然としているカガリに先ほどとは違う見とれるような笑顔で微笑むと部屋を出て行った。 部屋からは「お休みのキスは頬だろう!」とカガリの混乱っぷりが伺える叫びが聞こえてきてキラの笑いを誘う。 「さて、行かなきゃ」 キラは顔を引き締め早歩き気味に目的の部屋に向かう。 目的の部屋の扉の前に立つ。 一度大きく深呼吸した後意を決したようにコンコンコンとノックを三回する。 本来ならノックとは無縁ではあるが、夜中の時間でもあるので、起きているどうかの確認の意味も兼ねている。 「どうぞ」 中から聞きなれた声が入るように促す。 「お邪魔します」 「どうしたのキラ、こんな時間に。」 その声の主は相変わらずの美貌に惜しみなく笑顔を浮かべてキラに尋ねた。 どうやら彼は机に向かってなにやらしていたようだ。 また、マイクロユニットかな…。 「別に…。ちょっと言いたいことがあって」 座っていい?と聞くと同時に当たり前のように部屋の真ん中にあるいわゆる来賓用のソファーに座る。 部屋の主も当たり前のように向かい合って座った。 「で、何?」 「カガリ…のことだけど…」 「カガリが?どうした?」 キラはアスランの目を真正面から睨み付けるように見つめはっきりと言う。 「君が、カガリにちょっかい出してること。本気じゃないならやめて。」 にらみつけたままキラは視線をはずさない。 アスランは少し目を瞠ると口元に手を当て考え込む。 「それってキラに権利があるわけ?」 「なっ!!大事な姉に不誠実な恋人がいたら迷惑なのは当然じゃないか!!」 しれっと聞くアスランにキラは怒鳴るように応えた。 「でもキラには関係ないよね?」 「アスラン!!」 あまりにもさらりというのでキラは怒りをあらわにする。 「いい加減にして!!何でそんな風になっちゃたの!?」 人の気持ちを弄ぶような。 そんな人ではなかったはずなのに。 何が彼をそんな風にしてしまったのだろうか。 「・・・分からないの…?」 「え?」 「キラ本当に分かってないの?」 「な・・・にが?」 打って変わって低い声で問うアスラン。 「今まで、無意識だったってことか…。」 「アスラン?」 独り言のようにつぶやくアスランにキラは様子を伺うように声をかける。 アスランはじっとキラを見ると、視線をはずさずにキラの前に立つ。 「アスラン?」 再度訝しげにキラが尋ねると、アスランはにっこりと笑ってキラに両肩の横に手を置いて覆いかぶさる。 「アスッ…んっんん!!」 驚きに口を開いたとたんアスランに舌を入れられる。 「んっやぁ・・!」 キラは思い切り腕を突っ張ってアスランを押すがびくともしない。 なんで!!なんでこんなことに!! 混乱と快感で頭がうまく回らない。 やっと開放されてキラは肩で息をする。 どれ位時間がたったかキラは分からなかった。 お約束だが、長かったのか短かったのかすらも良く分からない。 力が完全に入らない状態で頭をたれていると上から声が降ってくる。 当然アスランのそれだ。 「俺はずっとこういう意味でキラを見てたよ?だからカガリは代わり。見てるならキラに似てるほうがいいだろ?」 「え?」 思いがけない言葉にキラの思考は止まった。 それに気づいているのかいないのか、アスランはキラの髪をすきながらつぶやく。 「いっそカガリの髪と目をキラと同じにしようか?そうしたら俺の苛立ちもまぎれるかも…」 「ア…ス?」 「でもそれはキラじゃないんだよね…。不出来なレプリカは反対にもっと苛立つか・・?」 どこか焦点が合わないアスランの自問自答にキラは肩を震わした。 「ねえどうしたらいいとおもう?キラ。」 「っっ…!!」 髪を梳いた手が頬をたどって先ほどまで重なっていた唇を指がなぞる。 キラは思わず息をのむ。 恐怖かそれとも快感を思い出したのかキラ自身にも区別はつかなかった。 アスランは「あぁ」と一人納得すると 「カガリを殺せばキラの心を占めてるやつが一人減るか。」 物騒なことを言う。 「アスラン!!」 たれていた頭を思わず上げてキラはアスランをにらんだ。 「君がカガリを殺すんだったら僕はその前に君を殺すから!!」 部屋に来る前にカガリに提案していたことをキラは勢いで口にする。 それにもアスランは動じず、考え込むように腕を組んだ。 「じゃぁ俺はその前にキラの心を占めてるカガリとラクスを殺そうか?そしたらキラの中は俺だけになって…。」 アスランの口調は子供がいいことを思いついたかのようだ。 整った顔にはきれいな笑みを浮かべている。 「そんなキラに殺されるのもいいよね?」 「君っ!!」 狂っているとしか思えないアスランの言葉にキラ叫んだ。 「…でも、そんなキラを殺すのもいいよね?」 「いっ!!」 キラの両腕をアスランの両腕が拘束する。 その力の強さにキラは思わずうめく。 「ねぇキラ、キラが俺を殺すのと俺が二人を殺すの、どっちが早いと思う?」 吐息が触れ合うほど近づいた顔。 完璧なまでにコーディネイトされた顔。 そこからつむがれる、狂気の言葉。 あまりのアンバランスさに眩暈がしそうだ。 彼をこんなふうにしてしまったのは僕の「無意識」のせいなのかな…。 キラは思わず涙を浮かべる。 「ほらそれが誘ってるって言うんだよ?」 「ア・・ス」 涙を吸われた。 思わずこぼれた吐息のようなキラの声にアスランは苦笑いする。 「そのすぐ潤む目も。その声も。もう存在自体が俺を誘ってるんだよ。」 分かってるの? 「わかんっないよ!!」 キラはヒステリックに叫ぶ。 「なんで、アスランがそんなふうに言うのか!そんな風になちゃったのか!!!全然わかんないよっ!」 一息で叫んだキラは肩で息をするが、その間もアスランは手を放さない。 さらにきつく掴まれて、痛みが増してきた。 「いっつもキラはそうだな。分からないんじゃなくて。分かりたくないんだ。面倒なことは。」 突き放すようにアスランは低くつぶやく。 「もう放してアスラン!」 キラは何がなんだか分からなくなって思い切り叫ぶと、アスランは片手だけ放した。 放されたほうの腕をチラリと見ると赤くなっている。 少しの間沈黙が流れた。 キラは訳が分からず混乱し、アスランは何か考えているようだった。 「…キラが競争してくれたら。」 ふとアスランが思いついたようにもらす。 「競争・・・?」 「そうキラが俺を理解して俺を殺すのが早いか、俺が二人を殺すのが早いか。」 「なっ!!」 あまりの内容にキラは絶句した。 「それとも俺を受け入れて俺のものになるか。」 「それは無い!」 きっぱりと言い切る。 僕がそういう意味で愛してるのはカガリとラクスだけだ。 アスランは親友のそれ。 絶対にない。恋愛の対象になることなんて。 「まぁ、じっくり考えて。今日はこのまま帰してあげる。でも今度こういう風になったら絶対に放さないから。」 「こういう風って…?」 「今、キラが俺にとらわれてる状態。」 「・・・・。」 「始めようかキラ…。」 アスランは残ったほうの手を緩めた。 キラはやっと開放された、と一つため息をつく。 がアスランはキラの手を取ると赤くなった手首に軽く口づけた。 「アスっ!!!」 動作は緩やかだったが、気を抜いていたキラには唐突過ぎた。 「これぐらい普通だろ?」 「…。帰る。」 当然のような顔をしているアスランにキラは怒りを通り越してあきれた。 あまりにもころころと変るアスランに対応し切れなかった。 「じゃあねキラ。」 「…バイバイ。アスラン。」 顔も見ずにそういうとキラは部屋から出て行く。 これが親友としての最後の別れかと思うとキラは少し泣きたくなった。 こんな中途半端ですが・・・ 続きはありませんよ!(死) あまりにも良く分からないというか当時何が書きたかったのか。 おぼえて・・な・・・。 とりあえず ・キラカガ(というかキラは女の子博愛主義) ・アスラン狂気的なまでのキラ好き。(ちょいザラ) ・これでもキラアスランすきなんだよ。(どこがだ。というかアスランより理性的なキラ。なつもり) がこの話の内容でした。 久しぶりの更新がこんなのですみません。 感想お持ちしております。 2006・12・14 加筆・修正 |