お題はmelt様から借りました。
シンハピバ設定のアスキラになってます。
順番はあまり関係ありません。
コンプリしました。(2007/4/11)
01 特別な日
02 ファーストキス
03 分かち合い
04 喧嘩勃発
05 磁石のように
06 マザコン野郎
07 浮気上等
08 迎えに来て
09 男のロマン
10 チャンネル争奪戦
01 「特別な日」
※キラ誕生日話2006の続きになります。
「どっちかが女だったらよかったのに。」
情事後のけだるい雰囲気のなかアスランの腕の中にいるキラがポツリとつぶやく。
今日はキラの誕生日で―もちろんカガリもだが―皆で盛大に二人の誕生日を祝った。
その後お決まりのように酒宴となり、アスランは酔いつぶれた周りを横目にキラを連れ出した。
そうしていつものように体をつなげ、抱いたキラのぬくもりに、生まれてきてくれたことを感謝した。
だから腕の中のぬくもりに幸福に満たされているアスランはキラの唐突なつぶやきに眉をしかめた。
「どうして?俺はキラが男でも女でも愛してるよ?」
腕の中のキラとしっかり目を合わせてアスランは言った。
でもなんで”どっちかが女”なんて…。
どう考えてもキラが女になったほうがいいだろう…。
当然声には出さなかったが。
「僕もアスランが男でも女でも愛してるよ。」と言うと目をそらしてキラはつづけた。
「ごめん…。ただ、『普通』の恋人だったら君を縛れると思ったんだ。
男同士だとなんにもないんだ。君を縛る術が。
君を大切に思うなら離れるべきなんだ。でも僕は嫌なんだっ!」
常にないキラの慟哭にアスランは息を呑む。
確かに感じるキラの独占欲にアスランは鳥肌が立つほどの喜びを感じた。
其処までキラが自分に依存していることにアスランは満足する。
それでもアスランのためならばその身を引いてもいいとかけらでも思っているキラのやさしさにため息をつきたきなった。
アスランはクスリと笑うとキラの顔を両手で包み込むように自分のほうに向けさせ、額と自分の額をくっつけて顔をあわせると、にっこりと笑う。
「俺だって嫌だよ?男でも女でもキラの隣に俺じゃ無いやつがいたらきっと俺は殺しちゃうよ。
キラが逃げたら探し出して一生腕のなかから出してやらない。俺だって我が儘だよ。
だから分かって?」
凄艶な微笑みと息もかかるくらい近くでささやかれたアスランの告白にキラは顔を真っ赤にした。
明らかに異常なまでの独占欲のセリフでさえもキラはときめいた。
まだ、自分のものなのだと感じる。
アスランはわかって言ってるんだろうなぁ。
見えない未来に自信のない自分にアスランは少しでも不安を取り除こうとしてくれて。
どこまでもやさしいアスランにキラは泣きそうになった。
幸せすぎてこの時間が過ぎるのが悲しかった。
「じゃプレゼントちょうだい。いつもとおなじやつ。せめて一年だけでも。」
キラは少しおどけたように笑って言う。
「いいよ。俺のこれからの一年をキラにあげる。」
そういうとアスランは額に口付けた。
まるで何か神聖な儀式のように。
「うん…。」
ありがとうと嬉しそうに笑うキラにアスランはため息をつきながら抱きしめた。
「一生でもいいのに…。」
キラの首筋に顔を埋め残念そうにつぶやいた。
キラのいいにおいがする。
お願いされても本当に手放せない存在。
対価に自分自身ぐらい簡単に差し出せる。
そうしていると耳元でクスクスと笑う声が聞こえた。
「あんまり先のことまで言わないほうがいいよ?僕真に受けるから、それで離れられたら間違いなく死ぬよ。
生きる意味ないし。」
「真に受けてもいいのに。
キラが俺に愛想尽かして離れるほうが可能性としては高いけど。
でも俺としては離さないように縛りつけて欲しいよ。キラが死んだら俺も生きてる意味がなくなる。」
「…堂々巡りだ。」
キラはまた笑うとアスランの背中に回した腕に力を入れる。
「じゃ、証拠頂戴。君が僕がいないと生きていけないって言う。」
「ん?」
「僕もあげるから。ね。」
そういってアスランを見上げて首を傾げるとアスランの顔が近づいてきて唇にぬくもりを感じた。
「いくらでも。」
そうしてさらに深く口付けた。
モドル
02 「ファーストキス」
「キラがすきなんだ。」
「?めずらしいね、君がそんなこと言うなんて」
小学校のころ以来だ。キラがそう笑うと、アスランの胸は痛んだ。
「そうじゃない!そうじゃなくてっ」
「アスラン?」
うつむいて首を横に振るアスランにキラは訝しげに顔を覗き込む。
うつむいたアスランと目が合うと、キラはいきなり抱きしめられた。
「ちょっと!アスラン?」
あわてて非難するがアスランの腕の力は緩まない。
じたばたしているとアスランの顔がキラに近寄ってくる。
「愛してる。キラ」
「!?」
何を言われているのか分からないままキラは唇をふさがれた。
「俺はキラが好きだよ。」
「僕も好きだよ?」
いつものような親愛の告白にキラもいつものように返す。
貼り付けた特上の笑顔つきで。
気が付けばアスランが好きだったけど、アスランが返してくるのは親愛のそれ。
キラがほしい物ではなかったが、失うよりは大分ましだった。
毎日ささやかれる疑似「愛の告白」に心は痛むが、それよりも喜びが先立った。
まだアスランは僕の隣にいる。
それが確信できるから。
それでも、あっという間に子供の時間は過ぎて、アスランはそんなこと一切言わなくなった。
「んっ…」
「キラ…」
息継ぎの間にもアスランはキラの名前を呼ぶ。
そしてまた塞ぐと舌でキラの口内をむさぼる。
なんでこんなことに!?
キラはパニックになったけれど、同時に歓喜する。
アスランがこうして自分を求めていることに。
かなうはずが無い願いがかなったことに。
気持ちよくて眩暈がする。
「はっ…んっ・・アッス…」
「キラ…。」
ようやく離れた唇を少し寂しく思っていたら、目がアスランの唇を追っていたのだろう。
それを見たアスランが微笑んだ。
「驚いたよね。ごめんねキラ。」
「…びっくりした。」
「っあ、まぁそうだよね。」
アスランが寂しげに笑う。
あぁそんな顔させたいわけじゃ無いんだ。
僕も本当は…。
「俺っ、はこういう意味でキラがすきなんだ。…気持ち悪いとは思うけど。
でも、このまま言わないでキラが誰かの物になるのは絶対に嫌だっ。だから…」
「僕もそういう意味でアスランのことが好きだよ」
アスランの言葉をさえぎるようにキラがきっぱりと言い放つ。
「キラ?」
「だから…びっくりしたけど…・・うれ、しかった!」
さすがに恥ずかしくてうつむいたキラに向かってアスランは問いかける。
「本当?」
「…ほんとう」
頭を縦に振りながら答える。
「ねぇ、さっきの気持ちよかった?」
「っそ、そ、そんなことっ!!」
聞かないでよ!!と顔をあげると、今まで見たどの笑顔よりもきれいな笑顔が正面にあった。
「やっと顔あわせて言える。」
「アスラン?」
「誰よりも愛してる。キラ…」
アスラン以外が言うとキザったらしく聞こえることをさらりというとアスラン顔が近づいてきた。
「僕も。ずっと前から…。」
そういってキラは自然と目を閉じた。
モドル
03 「分かち合い」
「寒い」
キラは首に巻いたマフラーに顔半分埋めながら少し篭った声で言う。
「そりゃ冬だからしょうがないな」
いつもの帰り道、いつものように並んで歩くアスランが、これもいつものように言う。
キラは冬、寒いのが苦手だ。
というか夏、暑いのも得意ではないが、あえてどちらかというと冬のほうが非難する言葉が多いとアスランは思う。
「アスランは割りと冬平気だよね」
「…そうか?まぁ冬生まれだから、かな。」
「それって本当に関係あるのかな。」
よく聞くけどさ、本当なのかなぁ。
相変わらず、マフラーのせいで、もごもご篭って言ってることがあまり聞こえない。
が、キラにとっては寒さを紛らわすための会話でしかないのは承知の上なので、あまり聞き取れなくても支障はない。
そしてアスランの応答も適当だった。
空を見上げてまさに上の空状態で返事を返す。
「さぁ、どうだろうな」
「…きみさ、適当過ぎるだろ」
猫背ぎみな体勢のキラが半分マフラーに埋まった顔をアスランに向ける。
すこしにらみを利かせた目で。
「…悪かったよ」
確かに、適当に相槌を打っていたのだから仕方がない。
「いいけどね。どうせ」
キラは少しすねたように言って、前を向いた。
「だから、悪かったって。」
「うん、分かったから。でも、寒い物は寒いんだよね!」
適当な会話にもなるよ。
キラはマフラーから口を出してはぁ〜と白い息を吐き出す。
そんなキラを見ながらアスランはなにか思いついたかのように「キラ」と呼ぶ。
「手、貸して」
「て?」
「そう」
そういってアスランは、ポケットに突っ込まれたキラの手をとって指を絡めた。
少し冷たい。
「おすそ分け」
「…なんの?」
「あったかさの」
からかうようにアスランが笑う。
そんな顔が可愛くてキラは照れくさくなってつい目を逸らして悪態をつく。
「バカじゃないの君」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも…」
「でも?」
「でも、あったかいから家に着くまでこうしてて」
そういってすこし強めに握るとアスランも握り返してくる。
きっと彼は笑っているんだろう。
キラには簡単に想像が付いたが、恥ずかしくて顔を元のようにマフラーに埋めた。
手から感じる暖かさが体中に移って心まで届くとすこし素直になれる。
寒い冬の日も君と熱を分かち合えたら幸せ。
モドル
04 「喧嘩勃発」
「アスランのばかっ!!」
「そりゃキラのほうだろう!!」
周りを気にも留めず、二人は怒鳴りあう。
でもここは学校の教室で…
「今度はなんなわけ?」
トールが机に肘をつきながら目の前の喧嘩を何の感慨も無く見ている。
トールがトイレから帰ってきたときにはこうなっていた。
でも、行く前にはいつものように「仲良く」話に興じていた。
たった数分で何が…?
日常茶飯事化した二人の喧嘩はたいていが「犬も食わない」代物だった。
「さ〜?僕が、ラクスさんからの伝言を伝えようとする前からああでしたから今回はラクスさんがらみじゃないみたいですね。」
ニコルが、トールの前の席に座って同じように喧嘩を眺めていた。
こちらもトールがいなくなった少しの間に今の位置にいた。
「ニコル君…。休憩時間終わるけど?」
同じ科の一つ下のニコルは当然ながら教室の階が違う。
「そうなんですよね、どうしましょうか。ラクスさんの伝言を後で伝えるのもちょっと…。」
「・・確かに・・・。」
妖精のような微笑ですべてを魅了する少女は、それを少女のすべてとするのには奥が深すぎる性格の持ち主だった。
トールはそんな少女の実態を思い出して、ニコルの同意した。
「かといって、この殺傷能力の高い痴話喧嘩の間に入るのもね…。」
「命の危機ですよね。」
ニコルは半ば本気で震えながら言う。
一度体験した者にしか分からない恐怖だ。
「じゃ、俺が伝えとくから、戻りなよ。アスラン?キラ?」
「お願いします。キラさんに」
「”今日、必ず遊びに来てください”と。」
手を振りながらニコルが去っていくのを見届けたトールは一つ深くため息をつき、いまだ喧嘩している二人に目を向けた。
覚悟を決めなければいけない。
もう少しで休憩終了のチャイムが鳴る。
「そこのお二人さん、そろそろ授業始まるけど?」
「トール聞いてよアスランがね!!」
「キラっ!すまないトール気にしないでくれ。」
同時に自分に話しかける二人にトールは眩暈を覚えた。
とりあえず、気にしたことなんてないよとトールは心の中でつっこむ。
「アスランは黙って!!」
「キラっ!!」
アスランはさらにきつくキラの名前を叫ぶ。
「っ!!やっぱりシンのほうがいいんだ!!」
「?」
トールはキラとアスランが可愛がっている二つ下の生徒の名前が出てきて不思議に思った。
「だから、ありえないって言ってるだろう。」
アスランはため息をつきながらあきれたように言う。
「わかんないじゃないかそれこそ!」
「それはそっくりそのままお前に返す。シンのほうがいいんだろ。」
アスランは低く抑えた声で返す。
そろそろこの痴話げんかも終わりか…。トールは一息つく。
「アスランよりはシンのほうが何倍も可愛いに決まってる。」
同じようにキラも低く返した。
「俺は、何があってもキラがいいし、可愛いが条件なら迷わずキラを選ぶ。」
怒りで抑えた物ではなく、真剣に言っているのだと分かる声のトーンでアスランは告げる。
「・・・・馬鹿じゃない君!!言ってて恥ずかしくないの!?」
「恥ずかしくない」
「僕は恥ずかしいよ!」
キラは真っ赤になって叫ぶ。
そんなキラを抱きしめながらアスランは耳元でささやく。
「だから、キラ・・・冗談でも俺に”シンのほうがいい”なんてけしかけないで・・・。」
いつものことなのは分かっているが、そうじゃないと分かっていても自分の気持ちがまだ伝わってないんじゃないのかと不安になる。
「・・・ごめんアスラン。」
キラも決まり悪そうにアスランに謝った。
最後に強く抱きしめられる。
「じゃぁ、教室戻るから。」
「うん、また後でね。」
キラは回した腕のさきにあるアスランの背をポンポンと二回たたくと笑って見送った。
…終わった。やっと終わった。
はぁと長くため息をつくとトールは力尽きるように机に突っ伏した。
毎度毎度たった十分の休憩であそこまで壮絶な喧嘩をし、なおかつ見てるこっちが恥ずかしくなるような仲直りが出来るのか。
あくまでもここは学校で教室で、周りにはクラスメイトもいるわけで・・・。
「大丈夫トール?」
トールの前の席のキラが気まずそうにこちらを伺ってきた。
「…大丈夫だけどさ、今回は何だったわけ?」
「シンのことあまりにも話すから、ムッときちゃって…。」
「・・・シンのほうがいいんだろって?」
「そう・・・。」
キラは恥ずかしそうに顔を俯ける。
「 」
「え?何?トール」
「先生来た。」
「え?」
前を見ると先生が教壇に立つところで、クラスメイトたちが次々に立って行くのにキラとトールも倣った。
周りがあわただしくなり聞き取れなかった言葉がキラは気になったが、授業が始まるのでそれ以上はいえなかった。
「いい加減にしてくれバカップル・・・・。」
モドル
05 「磁石のように」
「おまえらっていっつも一緒だよなぁ」
いつも周りに言われる言葉。
それでも僕には何が何やら。
だってそれが当然で、一緒にいないほうがおかしいと思うから。
「なんか変なことなのかな?」
「別に。あいつらはそうやって俺たちのことからかってるだけだよ。」
ふと思いついたようにキラが尋ねる。
それにアスランもまたいつものように返す。
それもまた当然で。
息するよりも隣にいるのが自然で、無ければ呼吸困難にもなりそうだ。
「でも、性格は真反対ですよね。」
キラはかわいらしいですけどアスランはかけらもかわいらしくありませんわ。
ラクスが僕たちを見て前に言った言葉。
それも僕には何がなにやら。
「真反対だとあわないのかな?」
分からないことはいつものようにアスランに聞く。
だってぜったい答えをくれるから。
「さぁ?でも磁石みたいに真反対だからくっつくこともあるんだ。俺たちもそうものじゃないか?」
なるほど。
僕はいつものように納得した。
「人はいつも無いものねだりだものね。アスランは僕には無い物をもってるんだ。」
僕がそういうとアスランは少し目を瞠ってこっちを見た。
そして次の瞬間見慣れてる僕ですら目を逸らしたくなるほどの笑顔で言った。
「だからキラがすきなんだ。」
なにがだからなのかさっぱりだったけど、それは僕の鼓動を早めるには容易い言葉だった。
モドル
06 「マザコン野郎」
「じゃぁキラまた放課後」
四時限の授業が終わり、いつものようにキラのとことにやってきていたアスランは、休憩終わりのチャイムと同時に帰って行った。
キラもいつものように笑って手を振りながら「あ〜すごく嬉しそう」とつぶやく。
もちろんアスランには聞こえない。
が、後ろの席のトールにはしっかり聞こえた。
「何が?」
「え?」
「だからアスラン。嬉しそうって今さ。」
「あぁ、いつもと違うでしょ?」
どこが…?
とてもじゃないがどこがいつもと違うのか。
キラに向ける笑顔はいつものように目を逸らしたいもので。
「今日アスランのお母さんが帰って来るんだよ。」
「あぁ、研究員だとかいうあの?」
「そうそう、久しぶりだからアスラン昨日からずっとあんな感じでちょっと浮かれてるの。当然だけど。」
浮かれてる?アレが…?
「まぁそんなとこも可愛いんだけど。」
そんなアスランを脳内リフレインしたのかキラはクスリと笑う。
「アスランってマザコンだったんだな。意外だ。」
まぁめったに会わないんだったら普通かもな〜とトールは続ける。
キラは少し目を瞠ってから何かこらえきれずに口元を押さえながらうつむく。
肩が少し震えている。
「キラ?」
「・・・い・や・・ごめ・・・・。アスランが・・・マザ…って。ちょっ・・・おも…ろかった。」
「?」
そんなに笑えるか?とトールは首を傾げた。
「あぁごめん。いわゆるマザ・・・コ・・ンなアスランを想像したらおもしろかったんで。」
といいながらもキラの口は歪んでいる。
”マザコンアスラン”が殊の外ツボだったらしい。
「レノアさんにも言おう。」
思いついたようにキラは言う。
「レノアさん?」
「あ、アスランのお母さんのこと。絶対笑ってくれると思うんだよね。」
しかも爆笑してくれるよ。と言い切る。
トールは少し遠い目をしてマザコンネタで遊ばれるアスランを思った
…少しかわいそうになってきた。
原因が自分なので心の中で謝っておく。
ごめんな…アスラン…。
次の日からかわれたであろうアスランの機嫌がよかったのは、紛れも無く前で寝ているキラの犠牲による物だとトールは悟った。
モドル
07 「浮気上等」
「アスラン、僕今日は一緒に帰れないから。」
「え?」
朝、登校はキラの家まで迎えにいって、下校は、クラスまで迎えに行く。
当然のように毎日登下校を一緒にしている、キラの唐突な発言にアスランは驚いて声を上げる。
キラはそんなアスランを他所にお昼ご飯を食べている。
今日は委員会とか何かあったか?
もしかして居残りで課題?
いや、でも期限付きの提出物の予定はなかった…。
ある意味キラよりもキラのスケジュールをは把握しているアスランの頭はあらゆる可能性を探るがなかなか出てこない。
「…アスラン。委員会でも居残りでも提出物でもないから。」
「……じゃぁ何なんだ?」
キラに考えていたことを当てられてムッとしながら尋ねる。
理由もないのに「一緒に帰れない」と言われると信じてはいてもあらぬ誤解をする。
「ラクスに夕飯誘われたからラクスの家に行くんだ。帰り迎えに来てくれるんだって。」
誤解しそうなアスランを知ってか知らずか、キラは満面の笑みで答えた。
よほど楽しみらしい。
しかしアスランはそんなことは関係ない。
重要なのは…。
「ラクスだってっ!?」
アスランは周りの目も気にせず叫ぶ。
「うん。さっきニコル君の伝言をトールから聞いてね!「今日必ず遊びに来てください」だってさ。」
絶対おいしいご飯が待ってるよね!
キラは机に体を乗り上げてはしゃぎながら言った。
「うっとり」という形容詞が当てはまるキラの顔にアスランは不機嫌を隠さずに顔に出す。
さらに顔だけではなく、不機嫌がそのまま表に出たような低い声でうなる。
「浮気か。」
「えぇ!?」
そんなアスランの声にキラのほうがあわてる。
「浮気っ!?なんで?ラクスのところに行くだけじゃないか!」
「ラクスがキラのこと狙ってるの知ってるだろ…」
「え?でも遊びに行くだけだよ?」
まるで分かってないキラにアスランははぁ〜と長いため息をついて言う。
「それは俺からしてみたら浮気だ」
「はぁ?」
キラはまったく理解不能というような声をあげる。
「だから、行くなよ?」
アスランは至極真剣に言う。
「え・・・でもおいしい料理…。」
キラももちろんとぼけているわけではなく、真剣だ。
庶民のキラからしてみればラクスのお抱えコックレベルの料理は高くて手が出せない。
せっかく誘ってもらってタダで食べられるチャンスなのだ、無駄にはしたくはない。
「大体キラ、ラクスは”料理”だなんていってないだろ?」
「でも、ラクスのことだもの、料理は用意してくれてると思うよ?」
「”遊び”がメインだろ?」
「でも料理だってあるよ!!」
あくまでも行くと言い張るキラにアスランはため息つきながら一つ提案をした。
「じゃぁ俺が今日は作ってやるから、行くな」
「う゛…。」
アスランの手料理は絶品で、キラも大好きだった。
けれども彼はお正月やキラの誕生日にしか作らない、レア度でいけば確かにラクス宅の料理と張る…。
でも、ラクスの誘いを断るのは悪い気がする。
キラにとってラクスは可愛い友人。それこそカガリと同じぐらい大切にしている女の子だ。
なるべくわがままは聞いてあげたい。
「じゃあさ・・・」
「何だ?」
「一緒に行こうよ?アスランはラクス苦手だから誘わなかったけど、ラクスだって一人でなんて言ってなかったし…。」
「・・・・。」
「どう?アスラン?」
黙ったアスランを伺う。
「後から覚悟しとけよ…。」
低くうなるように言う彼にキラは青ざめた。
…後で、ナニするんですか?
「ア、アスラン?」
「何?」
「い、いや。」
今更ながら不機嫌な彼にキラは冷や汗を流す。
これは、まずい、相当まずい。
「上等だキラ。週末ははもう浮気なんてしたくないって程離さないからな。」
声のトーンとは裏腹ににっこり笑ってアスランは言った。
それは愛の宣告とともにあまりにも傲慢な束縛の宣誓だった。
「今日、楽しみだなキラ。」
先ほどと同じ笑顔でアスランは青ざめたキラに向かって言った。
君が楽しみなのは”その後”でしょうが!!
言いたくてもいえないキラは代わりに顔を引きつらせながら笑って返した。
「楽しみだね”ラクスの”お宅の料理。」
それがあおることになるのは十分に分かっていても。
モドル
08 「迎えに来て」
キラから珍しくメールが来た。
いつもなら、メールをする前にこちらに来るのだが。
「何があったんだ?」
アスランは首をかしげながらキラのところに向かった。
「送信完了」
携帯のボタンを押す手を前の席に座っているトールはじっと眺めていた。
「大丈夫かキラ?」
「んー今のところは。」
心配甲斐の無い返事だ。
あからさまに顔は青ざめているのに、分からないとでも思っているのだろうか。
窓側の席のためキラは窓枠に背もたれながらぼんやりと宙に視線を向けていた。
「…アスランが同じクラスならよかったな」
トールは仕方が無いと思っても言いたくなった。
「まぁ、いまさらだよねそれは。」
電子工学と情報ではクラスが違うの当たり前だ。
「それでもなぁ。」
「まぁもうちょっとの辛抱だし。」
アスランが来るまで。
クラスが違うとはいえ、共同作業も多いクラスだ、比較的教室は近い。
アスラン…ちょっと世界が歪んで見えてきたんだけど…。
キラは周りを見ながら時折起こる頭痛に眉をしかめる。
まだ、待ち人は来ない。
移動教室で特別棟にでも行っていたのだろうか。
動いても仕方ないので、視線を扉のほうに目を向けた。
「キラ」
心地よい耳慣れた自分を呼ぶ声。
「アスラン」
その人を認識したとたんキラは安心したように微笑む。
近づいてくるアスランに両手を伸ばすと、腰にすがりついた。
アスランはおなかあたりにあるキラの頭を抱くようになでる。
「…大丈夫じゃないみたいだな」
感じる体温がいつもより高めだ。
「そうかな?でももう大丈夫だよ」
アスランがいるから。
口にはださないけれど。
「…そういうお前は信用できない」
「え〜アスランほどじゃないと思うけど?」
明らかに病人のくせにいちいち言い返す。
アスランは何か言い返そうと思ったが、きりが無い事に気が付く。
そんなことよりもキラの体調が優先だった。
「まぁいいさ。帰るぞ」
「うん…」
「立てるか?」
「うん大丈夫」
即答するキラにアスランは眉間にしわをよせる。
無理なときほど平静を装う。
「俺の首に腕まわして。抱えるから」
「え!?いいよ。何言ってんのアスラン!ここどこだとっ」
「問答無用だ」
アスランは騒ぐキラを無理やり抱えると、トールに「後はよろしく」と頼むと教室をでた。
廊下がざわめく声が教室の中まで聞こえてきた。
その中にはキラがアスランを罵る声も混じっている。
モドル
09 「男のロマン」
「ねぇ、キラ。どっちがいい?」
そう言ってアスランが示したのは二着の服。
「君、ついに頭やられたの?」
顔だけの男なんて情けないよ。
とキラが嘆かわしそうにアスランを見やると、アスランはさらりと無視して繰り返した。
「どっちがいい?」
「…」
「ねぇ、キラ?」
「・・・・どっちもいや。聞く方が間違ってる。」
「似合うと思うよ?」
首をかしげて当然のように言うアスランをキラは一刀両断した。
「似合う似合わないじゃない。僕が着る物じゃないだろソレ。」
「…キラのために俺が買ったんだよ?」
「へんったい。」
思いっきりためて言う。
取り付く島がないとは正にこのことだ。
「でも誰よりも似合うと思うよ?」
「・・・だからっ・・・それはっ・・」
キラは怒りを押し殺したように言うが
「・・・女物じゃないか!!!」
ついには押し殺せずに叫ぶ。
キラの前に置かれた服は世で言う「セーラー服」と「メイド服」だった。
「着るのは女の人が多いかもしれないけど目的は一緒だよ?コスプレプレ…。」
「その下品な口を今すぐ閉じろ。」
何を言ってるんだといわんばかりのアスランから出てきた言葉をキラは思わず遮った。
「ひどいなキラ。男のロマンじゃないか。」
「君、いつからそんな変態になっちゃったの?良いの顔だけじゃないか…。」
本気で嘆かわしそうにボソリとつぶやくとアスランはにっこり笑って言った。
「マンネリもダメだと思ったんだけど?」
いっぺん死んで来いこの顔だけいい男!!
キラは声に出さずにあくまで心の中で思った。
「あぁさっきからキラは俺の顔は認めてくれるんだね?」
「!?」
「声には出さなくても顔に出てるよ?」
「…。」
「他は認めてくれないの?」
ずっと楽しそうに笑っているアスラン。
キラは見透かされているようでムッとしたが、ちょっと思いついた。
いつもなら「ない!!」って言うんだけど…。
今日はかえてみようか?
意趣返しのつもりでキラは言ってみた。
あくまで、いつもと違うリアクションで、アスランを驚かせることが目的だった。
アスランを引かせるのが目的だった…。
「もちろん、顔だけじゃないよ?アスランの全部がかっこいい!」
極上の笑顔をうかべた。
ここでアスランがいつもと反応が違うことに驚くはずだ。
そのはずだった・・・・・。
「ありがとうキラ。キラも全部可愛いよ。じゃ、今日はこっちね?」
「え?」
同じように極上の笑顔で返されてキラは目を瞠った。
そうして押し付けられるメイド服。
「キラ、自分じゃ着れないだろ?着せてあげるから服脱いで?」
「は?」
「あぁ、服も俺が脱がしたほうがいい?」
「アス…?」
「?キラは俺の全部を認めてくれたんだろ?だったらいいよね?」
「え・・・い・・・?」
「俺もキラの全部を愛してるから…。」
そういってアスランはキラの服に手を掛ける。
ちょっと待て…。
何でこんなことに…。
だって驚くのはアスランのはずで。
僕が今こうなってるのは・・・・?
「な・・ん」
「馬鹿だなキラ。言ってるだろ。顔に全部出てるよ。」
脱がし終わったアスランはいそいそとキラに服を着せ始める。
どうせ脱がすのにこの男は何をしてるんだか…。
キラは敗北感から脱力したまま呆然と思った。
モドル
10 「チャンネル争奪戦」
ヤマト宅でアスランは夕食をご馳走になる。
母レノアがいないときはいつもそうだ。
いや、いても二人で食べに来てと誘われることも多い。
お袋の味といえばもう、アスランの中でカリダの味になっていることも事実。
そんなわけで今日もおいしくお袋の味をいただくと、テレビに夢中になっているキラの隣に行く。
「キラ、俺も見たいものあるんだけど」
「そう。」
そっけない答え。
絶対聞いて無い。
「変えても良いかな?」
「ん?」
聞いていないことをいいことにさっさとリモコンを奪いチャンネルを変える。
「なにやってんのさアスラン!!!僕が見てたの分かるでしょ!?」
キラは怒鳴るがアスランは気にしていないようにテレビを見ている。
なんだっていきなりこんなことに!?
キラは理不尽さを感じながらアスランがしたようにリモコンを奪ってチャンネルを変える。
「あ」
「いいとこなんだから、邪魔しないでよね!」
そういうとテレビに集中しだすキラ。
「キラ…俺もいいとこだったんだけど。」
「うるさいよアスラン。」
「だったら変えても良いかな?」
「う・る・さ・い」
アスランのほうをちらりともキラは見ない。
「ねぇ、キラ?」
「まだ言うか!!だったら君、自分の家でみなよ、ウチのテレビより大きい液晶じゃない!」
しつこいアスランに向かってキラは切れながら怒鳴る。
それでもテレビが気になるのかすぐさま意識はテレビのほうに移る。
おもしろくない。
アスランは大して見たいテレビはなかったが、キラがテレビの方ばかりに集中するので、こっちに意識を向けさせるため、チャンネルを変えてみた。
効果が無い上に、さっさと家に帰ることを薦められるのはおもしろくなかった。
しょうがないか…。
「キラ…。」
「何!?」
いい加減しつこい!!と続けようとすると、隣に座っているアスランがリモコンを持ってにっこり笑っている。
ピッ
テレビの画面がブラックアウト。
「なに電源消してんのさ君は!!」
キラがアスランの襟をつかんで顔を近づけて怒鳴る。しかしアスランは
「リモコン取り合うくらいなら消したほうがいいと思って。」
いけしゃあしゃあと言う。
「それは君の主観だろう!!あぁもう!!もうちょっとで犯人分かったのに!!」
「犯人?多分社長秘書だと思うよ。」
「言わなくていい!!!」
キラはガクリと肩を落とした。
うなだれるキラをアスランはなだめる。
「多分動機は、社長のお金を使ったのがばれたからで…」
「そこまで誰も聞いてないっっ!!!」
モドル