「赤い目の子犬」  (シン・キラ出会い編 キラ目線)




「今年もサクラがきれいに咲いた」
学校の名所とも言えるサクラの群生の中を歩くとおなじみの木にたどり着く。
ぼーっと見事に咲いた桜を眺めていると、枝の間からこぼれる春の日差しと、温かな風に誘われて、いつものように睡魔がやってきた。
春眠暁を覚えず…良い言葉だよねほんと。
天気の良い日はお昼寝に限る!!
先人の教えをまっとうしようとキラはねっころがる。
今日の予定は…。
「入学式とHRだけだから寝てても良いよね?」
と一人で勝手に納得して、木の幹に頭を預け目を閉じた。

アスランに「外で寝るな危ない!」とか言われたけど、学校だからだいじょうぶだよね。

過保護な幼馴染兼親友兼―最近加えられた―恋人に対する言い訳を思い浮かべた。
春一番のような暖かい風が気持ちいい。
キラは自然と眠りに落ちていった。


ぐに

(な…に?)
突然訪れた衝撃に誰かに踏まれたことを認識する。
目は覚めていたが、ここで起きても気まずいし、相手だってすぐいなくなると思い、眠っている振りをすることにした。
はやくどいてくれたらまた眠るのに…。
はっきり言ってキラはまだ寝足りなかった。

「マジで生きてんのかなこの人。」
(行きてる生きてる。)
口元に気配を感じる。どうやら息をしているかどうか確めているようだ。
(パニックになってるわりに落ち着いてるなぁ)
「この制服は…この学校のだよな。年上?」
(よく新入生に間違われるけどね。)
キラはこの少年の反応が落ち着いているようで的外れなことを言っているため、ちょっとパニックになっているのがわかっておもしろくなってきた。
ただ、問題はこのまま寝た振りするかどうか。
少しこの少年に興味が湧いたので、どんな子か見てみたい気もする。

ど〜しようか。

(まぁこのまま寝てても埒が明かないし。二度寝ようにもさすがになぁ)
とりあえず起きるか。
意を決してキラは目を開けた。
目の前には黒い髪の少年。

犬みたい。

少年はキラとは違う方向を向いてなにか考え込んでいたため目を開けたことに気づいていない。
声かけないとダメかな?
「君誰?」
「わっ!!」
予想以上に驚かれた。

赤い目がじっとこっちをみる。

しかし待っても返事が返ってこない。
「ちょっと、聞いてる?」
じっとと見られて少し不機嫌そうに尋ねる。
「あっ!!す、すみません!!俺…迷子でっ!怪しい者じゃないないんです!今日入学式で、サクラ見てたらここまで来ちゃって、道わかんなくて。あっ俺一年三組のシン・アスカって言うんですけど」
つらつらと出来るだけ自分のことを喋る。

怪しくは・・無いけど・・・キラはそんな少年を見て笑いをこらえたがさすがにこらえきれず、吹き出す。
「…くっ。あははは。」

この子おもしろい!!
怪しくないからって出席番号から自分の名前言うとかありえないし!!

しばらく笑い続けたが、さすが相手もにいたたまれなくなってきたのか話しかけてきた。
「あ、あの…。」
「あぁ、ごめん、ごめん。で、迷子って君ここどこだか本当に分からないの?」
「はぁ」
しゅんとうなだれた姿が黒い子犬みたいだ。
「上ばっかり見てたんじゃ無いの?」
「木の隙間から周りを見ようとしてたんですが…。なにぶん多くて無理でした。」
しょんぼりと肩を落として言う。
あぁちょっと可哀そう。そんな落ち込むことでもないのに。
「…え〜まぁそんなに気を落とさないで。新入生は迷いやすいらしいから。僕も初め迷ったしね。」
とさりげなくフォローする。

迷子なら帰り道を教えてもまた迷いそうだ。
なら一緒に帰ったほうが彼も安全だし、僕も安心だ。
そうおもってキラは寝なおすことをあきらめた。
「じゃぁ行こうか。」
立ち上がり少年目の前に手を差し伸べる。
「え…?」
困惑したような声を出して、呆然と見られる。
何か変なこと言ったかな?
不思議そうに首を傾け聞いてみる。
「迷ったんでしょ?僕もそろそろ帰るから一緒に帰ろう?」
ほらと促す。
「あの・・手…。」
少年は言いにくそうに言う。
手…?あっ!
「あっあぁそうか。恥ずかしい?ごめん僕の感覚で…いつも手をつないで帰ってるから…。」
アスランのせいでいらない恥かいたじゃないか!!ばか!と最愛の人に心の中で悪態を付く。
気を取り直して少年に笑いかける。
「じゃ行こうかシン・アスカ君。」
「え?何で俺の名前。」
驚く顔にキラは驚いた。

もしかして自己紹介したの覚えて無い?

「さっき言ってたじゃない。一年三組シン・アスカって。自分が何言ったか覚えてないの?」
少年は顔を赤らめると小さな声で謝る。
「すみません…」
「いや、まぁ謝ることじゃないよ。ちょっとおもしろいけど。」
と笑いをこらえながら言う。
この子ほんとにおもしろい!!

桜の群生から校門へ着くと実は彼は僕の家と同じ方向だった。

それからたわいもないお互いの話をして歩く。
家族のこととか。
僕の幼馴染のこととか。
桜のところで何で寝てたとか。
そうしていたらあっという間に少年の家に着いた。

「じゃ、またねシン君」
「シンで良いですよ・・・え〜と」
今更ながらに相手の名前を言って無いことに気が付いた。

「三年一組キラ・ヤマト。また明日。」
そういって手を振りながら帰る。


アスランに報告しなきゃ。
可愛いワンコがうちに来たって。
あぁでもほんとおもしろい子だったなぁ。

キラは一年間楽しく遊べそうだと確信する。
シンは一年間遊ばれる運命をいまだ知らなかった。








キラ目線内容は変わってませんがまぁこっちのが元あって書きやすかった。
キラは黒いけど天然タラシがモットーで書いております。

2006.3.31 改稿

黒いっていっても白いんじゃないかと思います(どっちやねん)
…黒すぎない?