S. O. L. 2





「シン!!踏み込みが遅い!」
「っ!」
「集中力が切れてきたんじゃない?」
「まだまだです…。」

「…。」
「あすらん?」
「いつもあぁなのか?・・・ステラ・・。」
「うんいつもそう。」

仕える主に剣を訓練してもらう護衛。
なかなか見ない光景だ。
しかもあの様子からすると早朝からやっているようだ。
自分が来たことに一向に気づくことなく二人は真剣に組み合っている。
朝の用意が出来たと伝えにきたのだが、この様子だと決着がつくまでは無理そうだ。

「ステラ、俺は朝の用意が出来たから来たんだが・・・。」
「朝ごはん!!ステラパン食べたい!」
「あぁそう用意させてある。」
「ステラいく!」
「王子とシンを置いてか?」
「あ。」

素直なステラの発言にアスランは苦笑いした。
さてどうしようかと考えていると隣にいたステラが飛び出した。
手にはステラの武器の二本の短刀が握られている。

「キラ!!シン!!ごは〜ん!!」
「ステラっ!!!」

組み合っている二人に叫びながら向かっていくステラにアスランは慌てる。
しかしステラは止まるどころかさらにスピードを増して二人の間に割って入った。

「ステラ!」
「わっ!!」

突然割って入られた二人は慌てて剣を引いた。

「ごはん!!」

と真剣にステラににらまれるとキラは分かった分かったと剣を収めた。
あ、なに剣収めてるんですか!とシンが食い下がるがシンも!!とステラにさらににらまれてしぶしぶ収めた。

「あぁごめんねアスラン。待たせたよね?」

キラが笑いながらアスランの方に歩いてくる。
あれほどシンと稽古しておきながらキラは息もあがっていない。
キラがあれほど剣を使えるのは正直意外だった。

「いえ。」
「シンがしぶとくてさ〜」

まいったよ。とこぼすが口調は楽しそうだ。
アスランは一歩下がって歩く。

この主従は馴れ合いが過ぎる。

とラクスと自分の間も鑑みて思った。
キラがシンを弟のようにからかう。
そんな様子が滞在数日だが多々みられた。
それでうまくいく主従関係は何かあった後に困るのではないかと思った。

それに護衛というシンの能力が王子に対して間に合ってない。
王子のほうが強いなどと一般的にありえないだろう。
それに仮にも公に出すこともある護衛にステラのように言葉が不自由な者を当てるというのがアスランの中で考えられない。
このように他国に来て外交官のような役割も必要とされるのならなおさらだ。
結局シンとステラ足して調度いいということか。

「顔に出てるよ。」
「え?」

アスランは思わず先を歩いているキラを見た。
けれどキラは前を向いていて顔は見えない。

「アスランは僕たちの関係にあまり首を突っ込まないほうが良い。」
「っ!」
考えていたことがばれてアスランは羞恥に顔を赤らめる。

「他国の人間のことなんて気にしないほうがいい。」
「…。」
「そのほうが君の思う『効率がいい』じゃないかな?」

明らかに自分の考えを読まれて馬鹿にされた。
むしろ見下された。
恥ずかしくて悔しくて顔を伏せた。

「ねぇアスラン。君、意識変えないとラクスの傍にはいられないよ?」
「は?」

いきなり出てきたラクスの名前にアスランは驚いた。
顔を上げるとキラがこちらを見ていた。

「君は誠実だけど、それだけじゃ彼女は守れない。」

恐ろしいぐらい整った笑顔にアスランは息を呑んだ。

「それは・・・」
どうゆうことか聞こうとしたが後ろから追いかけてきたステラに阻まれた。
ダイブして抱きついてきたステラをキラは簡単に抱きとめその一瞬アスランの方を見るとすぐにステラに視線を移した。





「街に行きたいんですの。」

ラクスの声がさわやかな朝の食卓の席に響いた。

「あぁそれはいいね。」
「ラクス様!お立場を考えください!!」

いっせいに肯定と否定されたラクスは困ったように首を傾げる。

「え〜いいじゃんアスラン。」
「王子も!ラクスさまは国の世継ぎで大事な方なんですから、街には行かせられません。行くならそれなりの護衛を・・・。」
「僕とアスランがいれば十分でしょ?」
「その貴方にも必要でしょう!?」

いつも一緒に護衛と食卓に着くというキラの要望にこたえてアスランもシン、ステラと同じように朝を取るようになった。
その結果がこれだ。
キラの自由奔放なところがラクスにも感染していて以前よりもわがまま度増してきた気がする。
その意識に変りようにアスランはラクスの世継ぎとしての不安を覚えた。

「でも、僕強いよ?」
「っ!」

それはアスランも分かっていた。
朝の稽古のキラを見てその力の程度を把握していた。
しかしそれとこれとは別だ。

「それは十分存じておりますが…。」
「アスラン・・・敬語」
「それはお断りします。」
「じゃぁ街に行こう。」
「それもダメに決まってます!」

アスランはきっぱりと断る。

「はぁ。」

キラはあからさまにため息をつくと持っていたナイフとフォークを置いてアスランを無表情で見る。


「国の世継ぎが国を知らなくてどうする。そんな者が王になることを国民がのぞんでいるのか?」
「っ!!」

アスランはあまりの冷たいいいように息をのむ。
キラはその様子を変えずつづける。

「君はある意味ラクスより帝王学を学んでいるんだろうし、補佐としての勉強もしているんだろう?」
「・・・はい。」
「君の理想の王とはどんなものなんだ?ラクスに国を知らずにすごせというのはどんな結果を生むのか簡単に想像がつくだろう、君が国を知らない王を望むのならそれはとても・・・・」

「キラ。」

冷たく言い放ったキラをラクスがやんわりとしかしはっきりと制した。

「アスランも立場が過ぎていましたが、それくらいになさって。今後十分反省もするでしょうし。ね、アスラン。」
「・・は、はい。」
かばわれたアスランはうなずくしかない。

キラが目元を緩めると呟いた。

「ラクスはやさしいね。」
「キラほどではありませんわ。」

それにラクスも笑いながらかえした。
しかたないなぁと大きく息をつくとキラは席を立つ。

「じゃぁ僕は部屋に戻るから。シンもステラはゆっくりたべてていいからね。」
「はぁい。」
「分かりました。」

ステラとシンの返事を聞くとラクスに微笑みかける。

「それじゃラクスまた後で。」
「えぇ。」
ラクスも軽く手をふって見送った。

「・・・申し訳ありません。」

キラが部屋から出て行くとアスランはラクスに謝った。
ラクスは苦笑いしながら
「構いませんわ。キラもわざとああ言ったのでしょうし。」
「え?」
アスランは意味の分からない言葉に目を瞠った。

「あんたが補佐として自覚が薄いってこと。護衛なら十分だけどな。」

シンはもう食べ終わったのだろう口を拭きながらいう。
アスランは首を傾げる。

「自覚・・・?」
「まぁ俺たちには関係ないですけど。それじゃ俺もこれで失礼します。」

席を立ったシンはラクスの前で優雅にお辞儀をするとキラを追うように足早に部屋を出て行った。

「なんなんだ・・・?」

キラの言葉もラクスの言葉もシンの言葉も意味が分からなかった。
だれよりもラクスを大事に思っているアスランははっきりいって心外だと声を大にして言いたかった。

「ステラも行く。」
「あらもうよろしいので?」
「ステラ、キラのごえいだから。」
「そうですわね。」
「キラが一番なの。」
「はい。」

「でもキラはくにが一番なの。」

アスランがはっとしてステラを見た。

「キラですもの。」

きっぱりと言い切るラクスにアスランは息を呑む。

「ラクスも。」
「えぇ。」

そこには自分の見たことのないラクスが悠然と微笑んでいた。




アスランがあわれな話なのです。
きついキラの話なのです。

これ、くっつくのかな・・・。


2008/7/7 改稿