「ある時代ある場所乱れた世の片隅で。」



「こら〜!!またお前か!!」

怒鳴られながらもシンは走る。
先ほど盗んだパンを落とさないようにしっかりと抱いて。
「悪いけどこっちも腹が減ってるんでね。」

そんな太った体のあんたが俺を捕まえられるわけ無いだろ?
鼻で笑いながらとにかく走った。
おなかがすいて苦しかったが、そんなのもこれを逃げ切れば、盗んだパンが食べられる。
そう思えばどうってことはなかった。
「こら〜!!待てぇ〜!!!」
待つわけがないじゃないかよ。

なんて不公平なこの世界。
シンのような子供が生きるには過酷な世界。
天国でも地獄でもココよりマシなら喜んで逝くのに。
救いなんてどこにもありはしないのだ。

シンが何とか逃げ切るとシンの横ぎりぎりを馬車が走っていった。
中には飾られたまだ幼い少女。
馬車の向かう先にはここら辺では有名な金持ちの家がある。

「売られて来たのかな?」

シンはパンを平らげながらつぶやいた。
この世の中では良くあることだった。
特に知識を与えられずに育った女が、慰め物として売られていくのは。
あの少女は自分がなぜあそこに行くのかも理解できていないのだろう。

「馬鹿みたいだ。神すらも愛してくれないのならどうしてこの世の中に生まれたんだ…。」
俺も…あの子も…。

不幸すらも平等ではないこの世の中にシンは何とも言えずいらついた。

その夜シンはこの間盗んだ剣を持って少女が売られていった金持ちの家に行く。
家には一度盗みに入ったことがあるので何とか入れるだろう。

どうこうする気はかけらも無かった。
ただ、今日売られてきた少女が、ただ、なんとなく気になって苛立っただけだった。

途中使用人とすれ違いそうになったが、なんとかばれずに屋敷に入ることが出来た。
屋敷の奥にあるだろうここの主人の部屋に向かう。


「やぁっ…」
部屋の前まで来ると少女ものらしき声がもれて聞こえてきた。
「やだっやだっやめっ…」
シンはかっとなって扉を思い切り開ける。

「なっ、何だお前は!!」
突然入ってきた少年にここの主人は驚いて怒鳴る。
しかし、その声はシンには遠く聞こえた。
ただ目の前の光景が頭の中を占める。
部屋は薄暗かったがシンの目にははっきりと映った。

大きなベッド上で男が少女の上にまたがっているその様が。
少女はうつろな目でシンを見ていた。

どうこうする気はかけらも無かった。
ただ、今日売られてきた少女が、ただ、なんとなく気になって苛立っただけだった。

「うあぁぁぁ!!」

シンはベッドのほうに叫びながら走って向かっていくと持っていた剣を男に向かって振り上げた。
そして振り落とす…。
何度か繰り返すと男はぴくりとも動かなくなった。
ベッドにだらしなく倒れこみ、そこら中を血で汚していた。

「はぁ…はぁ・・」
俺・・何して…。
シンは肩で息をしながら赤く染まった剣を見て軽く混乱した。

「ステラもしんじゃうの?」

「え?」
思わず声がしたほうを向いた。
あの少女がベッドの上であの男の死体を前にして、血にぬれて、座っていた、笑いながら…。
「ステラもしんじゃうの?」
少女は繰り返す。
”ステラ”それがこの少女の名前であろう。
生まれたときつけられたのか、それとも今殺した男に付けられたのか…。
それはもうどうでもいいことではあった。
ステラは壊れた笑顔で、シンを見上げた。
シンはそんなステラに泣くとも笑っているともつかない笑みを向けながら言う。
「しょうがないよステラ…。汚れちゃったら生きていけはしないんだ。」
特にステラはね…。
言葉にせずシンは心の中で続けた。
今の状況も分らなくなってしまったのに、これ以上生きることは出来ないだろう。
どうせ、主人を殺したとしてどこかの大人に殺されるか、また売られるのだ。

ならばいっそ。俺が…。

「さようならステラ…。」

剣を握り締め、振り上げる。
男を殺した剣の最後の一振りをステラに与える。



シンは泣いている自分に気づかずにただ走った。


ある時代ある場所乱れた世の片隅で。




大爆笑!!
自分で書いておいてなんですがとても笑える内容に…。
いや内容はいたってシリアスに頑張ったんですが…。
叫ばれると笑うよね。(ならかくなよ)
ちなみにこれポルノグラフティの「カルマの坂」が元ネタというか使ってます。
シリアスは笑っちゃうからうまくかけなくて残念。いちいち突っ込みたくなる性分が邪魔してる。
がんばろう…。


2005.11.12  SSSより移動、改稿


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