貴方は隣人立派なサラリーマン去年越してきた人

リリリリリ〜

バシンと目覚ましを止める。
週のほとんど使われていない目覚ましは火曜日に鳴る。あと木曜日。
ゴミの日だから。

「ま・・・ず。」

ムクリとだるい体をなんとか起こし、シャワーを浴びて薄化粧する。

「よし!!」

最低限のことを済ましたキラは鏡の前でにっこり笑う。
予行練習だ。

そろそろザラさんが出てくるはず…。

キラは玄関の扉にぴたりと耳をくっつけて隣人の動向をさぐる。

鍵穴の音に耳を澄まして。
(深呼吸 深呼吸)
ドアノブを回す指を感じて。

カチャリ。

鍵を閉める音。

出た!!

トントンとテンポよく歩く音がする。

一・・・ニ・・三・・・。
いまだ!!

自然に見えるように、キラは扉を開けた。
三秒後からこっそりつける。
何食わぬ顔して挨拶しよう。

「ザラさん!おはようございます。」
「あぁヤマトさん。おはようございます。」
営業成績トップの営業マンらしい朝からさわやかな笑顔にキラは眩暈がする。

今日もかっこいい〜!!


玄関からゴミ捨て場までの10秒だけのランデブー。
ゴミ捨て場に同じ目的の奥様がいようとも、彼が同じ笑顔を振りまいていようとも、キラには毎週二回の至福の10秒だ。
奥様と一緒に駅に向かう彼に「行ってらっしゃい」と言い、キラは部屋に戻る。

あぁ彼の笑顔を独り占めできたらいいのに。

歩きながらキラはセンチメンタルな考えに浸る。

「まぁ考えるのはたやすいんだけど…。さすがにこの年でこの考えは恥ずかしいかぁ〜。」

貴方に似合うひとにならなきゃ。
このままではダメよ。
分かってます。


苦笑いしながら天を仰ぐ。
降り注ぐ太陽が目に痛い。
実は夜型。
血圧80。
朝に弱い性質のキラにはいつものようにきつい空だった。


「とりあえず、預かった荷物お届けしなきゃ。」

木曜でいいか…。
あくびを一つしてキラは部屋に戻った。






リリリリリリリ〜!!

バシンっ!


目覚まし時計を殴り倒した本人は起きる気配が無い。


「・・・・。・・・・・っ木曜!!」

飛び起きていつものようにしたくする。


鍵穴の音に耳を澄まして。
ドアノブを回す指を感じて。
3秒後からこっそりつける。
10秒だけのランデブー。
週に二日だけのランデブー。


「おはようございます。ザラさん!今日は晴れましたね。」
「おはようございますヤマトさん。」

いつもの会話。
いつもの二人の関係。
いつもの彼の後姿。

変らない朝。



引きこもりがちな恋は卒業しなきゃ。
センチメンタルな恋は卒業しなきゃ。
貴方に似合うひとにならなきゃ。


このままではダメよ。
分かってます。


「とりあえず間違ってきた請求書お届けしなきゃ。」

恋の一歩になるように。








天野月子さんの「恋」で残暑見舞いですが…。
良く分からない上、アスキラの絡みが無い。
申し訳なく…。
拍手の方に続き…といいますか、こっち書きたかったねん!
ってものがありますのでよろしければそちらもどうぞ。

この話の書きたかったのはヒッキーなキラが隣人のアスランに恋をするっていうのがしたかったんです。
すみません。