いつかはじまりを告げたあの日まで 君をさらうよ 烏 神よ・・・・僕のすべてをささげますから、彼を愛させてくれませんか? ふわりと風になでられた。 キラは涙で赤くなった目をゆっくりと開ける。 「ここは…。」 そこはキラが逃げ出した場所。 悪魔の居城。 「願ってください。神は、貴方の父は貴方を彼のところまで連れて行ってくれます。」 これがそういうことなのだろう。 あぁ。感謝します神よ。 キラは一度目を瞑り小さくつぶやいた。 それから周りを見渡す。 場所は奥の大広間へと繋がる廊下。 広間に居るのかな…? しかしそこまでに至るまでに比較的大きな部屋もある。 「さがさ、なくちゃ・・・。」 連れてきてもらってからはキラの仕事だ。 ここのどこかに居るはずのアスランを探して、伝えなくちゃならない。 愛していると。 傍にいると。 ごめんなさいと・・・・。 キラ・・・。キラ…。 アスランはうずくまりながらただ一人の名前を唱え続けていた。 いとしそうに。 優しそうに。 寂しそうに。 でもこれでよかったのかもしれない。 キラを自分のエゴでこんな暗闇に閉じ込めてしまうくらいなら。 光の中にあればこそのキラ…。 それに惹かれて手を伸ばしたら握り返してもらえた。 だから自分もその中に入れるのではないか、キラと共に在れるのではないかと錯覚してしまったのだ。 キラが笑って、好きだと告げるから。 所詮自分は闇のものであるというのに。 初めからいらぬものであったのに。 キラ…。 もう会うことも出来ない。 それだけで胸が締め付けられるが、キラの幸せのためならどうってことはない。 キラ…。 「アスラン!!」 え・・・? アスランは顔を上げる。 扉の先にはキラがいた。 キラは肩で息をする。 走り続けてもういっぱいいっぱいだ。 大広間にいるのかとおもったのに…。 アスランはそこからかなりの距離がある自分の部屋でうずくまっていた。 扉を開けた瞬間信じられないような目でこっちをみるからキラは思わず眉をしかめた。 あの顔はぼくがもう戻ってこないと思ってた顔だ…。 それだけ僕は彼を傷つけたんだ。 「アスラン。」 もう一度、今度は落ち着いた声で名前を呼んだ。 あぁこのひとの寂しい魂を僕が守れますように。 悪魔のことを神に祈る様はひどく滑稽なのは分かっている。 神に神のことを祈るのだから。 それでもキラは祈らずにはいられなかった。 ひどく寂しがりな最愛の彼を守りたかったから。 キラは手を差し出す。 始まりの場所で目の前の彼がそうしてくれたように。 一度逃げてしまったけれどもう逃げはしない。 アスランは差し伸べられた手を信じられない目で見つめていた。 目の前の何者にも変えられない人は泣きそうな目でこちらを見ている。 彼の背には光がある。 その中に自分はいることが出来ない。 相容れぬ闇の者がそこに立つことは許されないのだ。 かつてそこから切り離された自分はそこにいることは許されない。 いっこうに動かないアスランにキラは泣きそうになる。 でももう待たないと決めたのだ。 やさしすぎる彼は絶対に自分に不利になることはしないのが分かっているのだから。 来ないなら行くまでだ。 一度そう決めたのに投げ出した自分がもう一度受け入れられるかなんて分からないが、そうしなければいられなかった。 そうしなければ二度と彼の隣にはいられない。 それだけは嫌だった。 キラは一歩一歩ゆっくり前に進んだ。 動いたキラにアスランはビクリと肩を震わせる。 来ないでくれ!! 必死に思っても相手には通じない。 「アスラン。」 「っ!!」 声は思ったよりも早く近くに聞こえた。 見なくても分かるキラの存在。 アスランは顔を上げられなかった。 上げたら、もう―。 「一人は寂しいよね。」 一向に自分を見ないアスランにキラは下から覗いて無理やり目を合わせる。 アスランの顔をやさしく包むと微笑んだ。 その微笑にアスランは泣きそうになる。 もう―・・・無理だ。 アスランはキラを抱きしめる。 「ごめんキラ。」 「僕のほうこそ。」 君の手を離したりして。 おびえていたのにそれがもどかしくて。 「でも、もう…。」 「僕が選んだんだよ?」 始めのころの君の強気はどこに行ったのさ? からかうようにキラが言う。 「君は僕の意思まで無視をするのかな?」 「でも・・・もう手放せない。」 「手放さなくて良いよ。僕がほしい腕は君なんだから。」 あの日熱にうなされて惑うように向けた腕は確かにアスランを求めていたのだから。 「はぐれないように捕まえてて。」 僕もそうするから。 そういってキラはアスランの首に腕を回した。 僕のほうこそごめんねともう一度耳元で囁かれてアスランは首を横に振った。 それに応えるようにキラがさらに強く抱きついてきた。 与えられたぬくもりにアスランもただ甘えるようにさらに強く掻き抱いた。 強く。 優しく。 愛していると伝えるように。 ← |