こんなちっぽけな魂で 君を守る事は出来る? 烏 「そんなところにいては寒いでしょう?」 「え?」 そういわれてキラは風の冷たさに身震いをした。 なんで?僕がアスランと出て行ったの春の終わりで…。 アスランのところですごしたのは二週間にも満たない。 夏は・・・・?キラは戸惑うまなざしをラクスに向けた。 ラクスは同じように微笑んで 「部屋で話しましょう。」 とキラの手を取り進む。 奥へ奥へと連れて行かれる。 たどり着いた場所。 「ここは…。」 入ってはいけないとされている神殿の最奥。 それは神の妻のために作られた祭壇。 「ここが私の部屋ですの。」 「え?」 長はここを部屋として使えるのだろうか…? 困惑しているのが顔に出ていたのかラクスはおかしそうに笑う。 「違いますわ、キラ。」 「え?」 「私のために私の夫が作ってくれたものですの。」 「え?」 さっきから僕、「え?」しか言ってない…。 何処となく冷静に自分を振り返った。 「キラ?聞いてます?」 「あ、はい!!」 キラは慌てて返事をする。 「えっとつまり…。」 アスランが悪魔だったのだ。 悪魔が居るのなら神が、いや神がいるからアスランがいるわけで・・・・。 つまり神がいるならその妻もいるわけで…。 その妻が・・・ラクス・・さま・・? 「えぇぇぇぇ!?」 「まぁ。」 キラの叫び声にラクスは楽しそうに笑った。 「悪魔…。神の半身の彼の正体を知ったときもそんな風でしたの?」 「アスランのときは・・・なんとなく分かったので…。」 「アスランと名前が?」 「いえそれは初めて会ったときに僕がつけてそのまま。」 「いい名前を付けられたのですねキラ。」 「いえ・・・。」 って照れてる場合じゃないし!! 「本当に…?」 「えぇ。」 疑うようにラクスを見るとラクスは優しく微笑見返す。 「キラ、よく思い出してください。私たちは常に二人でしかあっていないでしょう?」 ラクスとは回りに誰か居る状況で話したことはない。 それと反対に誰かと居るところを見たこともない。 「でも、皆で話したりはしましたよ。それに祈りの時間だって!」 そう、確かに祈りの時間祭壇の中央で祈りの指導をしていたのは紛れもなく目の前のラクスだ。 「”ラクス”とは神の妻の名前であり長の役名でもあるのです。私に実体はありません。今の長の体を借りて今この場に立っているのです。長は神の妻である私の依り代なのです。」 「そんな・・・。」 あまりの事実にキラはひざをつく。 「でもアスランには実体が!!」 「悪魔・・・。あぁ、アスランというのでしたね。彼は神の力を半分持っていますから私とは違って依り代を必要としないのです。」 「そ、うなんです・・か。」 もう話が大きすぎてキラには理解できそうになかった。 しばらく呆然としたキラをラクスは立ち上がらせて階段状になっている祭壇に座らせる。 「キラ、時間がありませんから本題に移りましょう。」 「時間?」 「えぇアスランの。」 「え?」 俯いていた顔を上げる。 アスランの・・・?何が・・・・? 「キラは神の子の力を使われてここに戻って来ました。自覚はなかったのでしょうが。」 「風が・・?」 小さな竜巻アレは自分が起こしたもの? 「えぇ貴方の力。それに神の力のかけらが助けて私のところへと届けられる。」 「神のちから・・?」 「白い羽があったでしょう?」 白い羽・・・それに触った途端光に包まれて目を開けたらここに。 それが神の力・・・。 「神は神の子の危機を察すると私の元、神殿へと届けられることになっているのです。いとしい我が子を助けるための神と私の約束…。」 遠く昔を懐かしむようにラクスは少し寂しそうに微笑みながらつぶやく。 「半身である悪魔、アスランとはなしえなかった約束です。」 ラクスはキラをじっと見つめる。キラも逸らさずに見つめ返す。 「貴方はアスランと約束をしたのでしょう?」 思い出させるように諭すようにラクスが言った。 約束…。 キラはその場面を思い出す。 ずっと一緒にいよう。 桜吹雪のなかでアスランは優しく微笑んで欲しかった約束をくれた。 孤独を埋めてくれた魔法の言葉。 だから僕も一緒にいようと思ったんだ。 同じようにこ孤独を抱えたアスランを癒したくて。 なのに…。 キラは手をきつく握り締める。 なのに僕は・・・与えられたことに満足して。 それでも面と向かってくれないアスランにいらだって。 手を離してしまったんだ…。 「泣かないでくださいな・・キラ。まだ間に合いますわ。」 ラクスが頬に伝わる涙を拭う。 「っ!すみませ・・」 泣いていたことに気づかなかったキラは恥ずかしそうに赤くなる。 ラクスはその様子に優しく微笑むとすぐに表情を厳しいものにした。 「キラ、先ほども言いましたけれどアスランには時間がありません。」 「どういう?」 「アスランは絶望してしまって世界がその影響をうけているのです。」 「絶望って・・!!」 僕のせいじゃないか!! 「悪魔とは神の嘆き。悲しみがだんだん世界に広がっているんです。」 「悲しみが…?」 「アスランのいた時間軸とここの時間軸はかなりの差があります。」 「え?」 「キラがどれくらいアスランの空間に居たのかは分かりませんが、こちらでは貴方がいなくなってから半年以上過ぎています。」 「僕は二週間ぐらいあそこにいただけで…。」 いきなり冬になっていたのはそれだけ時間の流れる速さが違うから…? 「あぁ、かなりの時差があるのですね…。」 ラクスは納得したようにつぶやく。 「アスランの嘆きはその空間においてはあまり経っていないのでしょうが、こちらではかなりの影響を及ぼしています。」 「あぁ・・・・。」 キラが声にならない声を漏らす。 「それを何とかするにはもうアスランの存在を無に帰してしまうしかないのです。」 「え?」 無に帰すって・・・。どういう…。 キラは意味が分からないと頭を振る。 「このままですとアスランは嘆きに侵食されて自我を失ってしまいます。そうしないためにも・・・。」 「嫌だ!!」 キラはラクスの言葉を遮るように叫んだ。 アスランの存在がなくなる? 優しい声が、あのまなざしが、僕をうけとめてくれる腕が。 全部全部…。 なくなる? 「そんなの絶対に嫌だ!!」 キラの悲痛な叫びが祭壇に響いた。 「ラクスさま、何か他に方法はないんですか!?絶対にアスランを消さなくちゃだめなんですか!?」 ラクスの腕をきつく揺さぶりながらキラは懇願する。 神の妻という奇跡に。 アスランの上にも慈悲を。 「キラ…。私には無理なのです。」 「そんなっ!!」 つらそうにラクスは告げる。 「私は一度彼を受け入れることが出来ませんでした。ですから私が彼に受け入れられることはないでしょう…。」 「っ!!」 ラクスさまがダメなら誰だってなんにもできない・・・。 どうすればいいの・・・? 助けたいのに。 「でもキラ、貴方ならば何とかできるかもしれない。」 「え?」 驚きにキラは目を見開く。 「一度アスランに受け入れられたのなら、救うことが出来るかもしれない。」 「どういう…?」 一度入ることを許させたものならばもう一度アスランに空間に入ることは可能だ。 そこから絶望にあるアスランを救い上げることが出来れば、アスランは助かるかもしれない。 「キラ貴方がもう一度アスランを助けたいと、癒したいと思われるなら、行くべきです。」 「僕…?」 「えぇ。アスランには時間がありません。嘆きがアスラン自身にも影響を及ぼすからです。でもキラ、貴方ならまだ間に合うかもしれない。」 「本当ですか…?」 まだ、間に合う・・・・。 もう一度アスランの手を取れる? 「願ってください。神は、貴方の父は貴方を彼のところまで連れて行ってくれます。」 女神の声にキラはすがった。 そうでであって欲しいと。 あぁ僕のすべてで彼を救いたいんです。 キラはなきながら祈った。 ← → |