S. O. L. それなりの国力を持ったエターナルは今日も平和だ。 国境付近ではそれなりのいざこざもあるがそれが中央の政治に影響を及ぼすこともない。 いたって庶民のしいて言えば商人同士の縄張り争いのようなものの類だ。 ただ、今の王には姫君しかおらず、その姫君が即位すればエターナル史上初の女王となる。 それが大臣や官僚の間ではかなりの問題になるかもしれない。 しかしそれも現在の王が崩御か退位するなりしてからのことなので、今のところその可能性も低い。 それ以上に国中の注目かつ混乱を及ぼす事項がある。 姫君の結婚だ。 「アスラン私、このたび婚約することにしましたの。」 桃色になびく豊かな髪。 世界に愛されているとまで言わしめる歌声。 春の姫と国民から愛されているエターナル国第一王位継承者ラクス・クライン―。 その彼女の結婚だ。 「は?」 ラクス・クラインの側近のアスラン・ザラは思わずお茶をあふれさせた。 アスラン・ザラ。 現王シーゲル・クラインの信頼厚い宰相パトリック・ザラの息子であり、ラクスクラインの側近として後の宰相と目論まれている人物。 その上かなりの剣の腕前を買われて護衛も兼ねている彼は、今のところラクス・クラインの夫としても一番可能性が高かった。 しかし、互いに幼馴染以上の枠はでないと思っている。 それでも彼女の相手選びには自分も駆り出されると思っていた。 自分がこの目で確めるのだという保護者心も当然持ち合わせていた。 それが―・・・。 「けっこん・・ですか?」 間抜けな声を出している自覚はある。 それも仕方がない。 「嫌ですわ、”結婚”ではなく”婚約”ですのよ。それよりもお茶こぼれてますわよ?」 あぁ!とアスランは慌てて拭くが頭がどうもうまく回らない。 そんなそぶりは一度もなかったというのに! 「でも、いきなり何故?」 もう一度入れなおしてラクスに差し出す。 「貴方も」とラクスに進められアスランは隣の椅子に座った。 「それで?」 質問の答えを促すとラクスは少し頬を染めて嬉しそうに笑いながら呟いた。 「運命のひとに出会いましたの。」 それはまさに花がほころぶ様で、アスランは目を疑った。 いったいいつ何処で!? アスランの脳内は混乱を極めた。 護衛の自分を置いて外に出ることはないはずなのに、なぜ自分の知らないところで運命の出会いとやらをしているのか!? 「姫、それはどこで…?」 「・・・・街で、ですわ。」 自分を置いて出て行くはずなどないのに。 「私を置いて…ですか・・・?」 「えぇ・・・まぁ…そういうことですわね。」 そんな自分の認識などあっさりくつがえされた。 ラクスは申し訳なさそうな顔をしていった。 「アスランが忙しかったころに少し街に出ましたの。初めて一人だったものですからちょっといざこざに巻き込まれてしまって、その時助けてくれた方ですの。」 ラクスは申し訳なさそうな中にも嬉しさがにじみ出た顔をしている。 何処のどいつだ!! 気の置けない友人を、大事にしていた女兄弟を取られるような心境だった。 「それは、陛下もご承知で…?」 街で会ったというのならばそいつの身分はそう高いわけではないだろう。 当然陛下もラクスにはそれなりの後ろだてとしても有効な人物を選ぶおつもりだったのだろうから手放しに喜んだわけではないと思われる。 親の反対を押し切ってまでもそいつがいいのか!? 「えぇ。実はその方お忍びで来ていたとある国の王族の方ですの。」 「え!?」 あまりの事実にアスランは言葉を失った。 助けた人がお忍びできたとある王族!? そんな偶然あるわけがない!! 「それは騙りではないのですか…?」 「まぁ!アスランあなた!」 「無礼は承知です。しかしあまりにも話がうまく出来すぎているような…。」 「それはそうかも知れませんが…。でもお父様が確認されたのですよ、それを疑うとでも?」 「そういうわけではございませんが、しかし、顔など王族となればそうそう知られませんし・・。」 あくまでも疑うアスランの姿勢にラクスは自然とため息をこぼす。 「その方とお父様は面識があるのです。それに王族の証それこそ偽造できない類の物をきちんと示してくださってますわ。」 「陛下と面識…?」 面識ということは近隣、もしくは果ての大国の人間に限られる。 国交がある国の王子となるとさらにその範囲は狭められる。 偽造できない物となると技術力も相当のものなのだろう。 そうなると当てはまるところは一つしかない。 「オーブの王子ですか…?」 「えぇ。キラ様とおっしゃるの。」 恐る恐る尋ねれば軽やかに響いて帰ってきた。 アスランは思わず頭を抱えた。 次の日アスランはそのオーブの王子キラに紹介された。 「キラ、こちら私の護衛で、後に宰相と見込まれておりますアスラン・ザラですわ。」 「初めましてキラ王子。アスラン・ザラと申します。以後お見知りおきを。」 仕込まれた優美な動作でアスランは自己紹介をした。 「君がラクス自慢の幼馴染?顔をあげてくれないかな。これからお世話になる人の顔も見ないで挨拶なんて嫌なんだ。」 「はぁ。」 アスランはゆっくり顔を上げる。 その目の前には紫。 「わっ!」 「あぁ!ごめん近すぎたかな?」 笑いながらキラは離れた。 あまりにもきれいな瞳の色にアスランは落ち着かない。 いえ、と小さく呟くので精一杯だ。 「初めまして。オーブのキラ・マラ・アスハです。これからよろしく。」 そういってキラは手を差し出した。 友人にするかのように。 アスランは戸惑って手を取れない。 一国の王子だと言うのにやけに気安い。 「僕と同い年なんだってね。オーブには身近にいなかったから、友達になってくれればと思うんだけど…。」 「おそれ多いお言葉です。」 「ラクスに対するように接してくれればいいから。」 「はぁ。」 なんとも馴れ馴れしい王子様にアスランはあっけに取られた。 しかしその様が反対に怪しくも見える。 なんなんだこいつは・・・。 「っ!?」 アスランは突然の殺気に振り返る。 と先ほどまで向いていたほうから感嘆の声が上がる。 「わぁ〜優秀だね。」 「キラ。アスランをからかわないでくださいな。」 「ごめん、ごめん。」 声の主のキラは罰が悪そうに笑うと殺気のしたほうへ手招きをする。 奥から出てきたのは男女二人。 「この二人が僕の護衛なんだ。唯一オーブから付いてきてくれてね。」 「仕事です。」 男の方が憮然と返す。 声も外見も近くで見ると幼い感じだ。 黒い髪にやけに気の強そうな赤い目。 「ステラ。キラと一緒。」 女―ステラと名乗った―は王子の方をじっと見ていった。 金髪に明るめの赤い目だ。 少し天然が入っているのかぼうっとした印象を受ける。 こんな護衛で大丈夫なのか…? はっきり言って人選間違いのような気がしてならない。 それが顔に出ていたのか黒髪赤目がギッとと睨んできた。 「シーン。君、睨んでないで挨拶なりしたらどうなの?失礼でしょ?」 「シン・アスカ。キラ・マラ・アスハ殿下の護衛の一人です。」 きれいにお辞儀はするがキラに言われてしぶしぶといった感が否めない。 もう一度シンはアスランの方を睨み付けるように見るとすぐに視線を逸らした。 人選間違という印象は変らないがさすがに失礼だと思いアスランはその視線をそのまま受け止めた。 「今度はステラだね。」 「ステラ。よろしくね?」 疑問系で首を傾げられたが、どうすればいいのか分からない とりあえずこちらこそと笑って返しておいた。 「良く出来ました。」 そういってキラは微笑みながらステラの頭をなでる。 ステラも嬉しいのか気持ちよさそうに目を細めた。 「この子はねステラ・ルーシェって言うんだ。ちょっと言葉が遅くって。剣の腕はシンよりも立つんだけどね。」 「殿下余計なことは言わないでください!!」 あまりの言われようにシンは思わず叫ぶ。 「シン〜。敬語はダメだよ。敬語は。」 「そんなこと出来るか!!」 その時点で敬語などなくなっているのが分からないのかシンは「だからあんたは威厳ってもんが少なすぎなんですよ!!」などとくどくど説教をしている。 この世のすべてに逆らっていそうな見た目なのに案外説教キャラなのかと思うと笑えた。 「ほら、シンいい加減にしないと。アスランに笑われてるよ。」 「〜っ!!」 「っ!」 キラは思わず口元を緩めたアスランを目ざとく見つけて言う。 それにシンは真っ赤になってアスランを睨んできた。 また睨まれてアスランはしまったと口元に手をやり息を呑む。 「・・・・・」 「・・・・・」 謝るべきかごまかすべきか…。 しかし自分が相手を笑ってしまったのだからここは謝るべきだろう。 「すまない。」 「…。」 素直に謝るとシンは睨んだ目を少し緩めて言った。 「あんたって不器用なんですね。」 見た目に反して。 アスランはそれにも何か悪いことをしたような気になって「すまない」と返した。 むしろその見た目がどういう性格をつくり出しているのか聞きたくなったが聞いたって笑われる事ぐらいは承知していたのでさすがに口には出さなかった。 「アスラン。そういうところが不器用だというのですよ。」 今まで傍観していたラクスがため息をつきながら言った。 出来の悪い子供を指摘するかのようだ。 アスランは首を傾げる。 さっぱりわかっていなさそうなその様子を見てキラは微笑みながら 「それが魅力なんじゃないの?」 とフォローのような物を入れる。 「そう・・・不器用というよりは不甲斐ないというべきですか・・・?」 「美形が天然。そのギャップがいいんだよね。」 「まぁキラはそういう人が好みなのですか?」 いままでアスランを不甲斐ないと嘆いていた声音が一気に恋する乙女の物に変っていた。 「ん〜一般的な意見?」 「殿下が一般ってそれ少数ですから」とシンが突っ込むがそんな物はキラもラクスも聞いていない。 「私もがんばらなくてわ。」 「ラクスは今のままで十分だよ。」 意気込んだラクスの髪をキラは一房とって軽く口付ける。 「ね?」 「キラ…。」 ラクスはうっとりという形容詞がふさわしい顔を浮かべた。 砂を吐きそうな甘さにシンは眉をしかめる。 ステラは「キラかっこいい」と呟く。 アスランは今からこうやって日々過ぎていくのかと眩暈を覚えた。 NEXT 2008.2.26拍手より移動、改稿 |