キレイゴト塗れの世の中じゃ









暗い。
何も見えない…。
なん・・で?

さっきまでアスランといて・・キス・・・して・・・。

で?

王子様に―お姫様でも一向に構わないが―キスをされて、目が覚めたらそこはおとぎの国でした。
めでたし。めでたし。

って、そんなわけない!!

キラは勢いよく起きた。
目を開けても真っ暗で、ぼんやりとしか周りが見えない。
自分の寝かされているところはベッドなんだろうと感触から推測できるが―違ったらそれもそれで怖い―状況が良く分からない。
アスランにキスをされてからの記憶がない。

なんで、アスランいないの…?

キラはうっすらとしか見えない周りを見回す。
アスランに会ったのは夢なんじゃないかと思う。
幸せだった桜の逢瀬は夢で今自分は神殿で拘束されているのではないか…。
そんなわけはないのは分かっているが理解できない状況でキラは完全に混乱していた。
混乱しすぎて石のように固まってしまった。

「アスラン…。」

自分でも情けなくなるような細い声にキラは泣きそうになる。

「アスラン。」

もう一度呼んでもなんの反応も無いのでキラは本格的に泣きそうになっていた。
そのときちょうど部屋の扉が開く。
扉の向こうからは薄暗くはではあるが光が入ってくる。
その光を背負うように誰かが入ってきた。

「アスラ・・ン・・?」

うっすらと見覚えのある輪郭にキラは期待を込めて名前を呼んだ。

「キラ?起きたのか?」
「アスラン!!」

期待したどおりの人物でキラはベッドから勢いよく飛び出しアスランに抱きついた。
「キラ?」
抱きつかれたアスランは驚きながらではあるが抱き締め返す。
キラは顔を埋めたまま喋る。

「・・・アスラン居なくて怖かった。」
「・・ごめん。」
「夢かと思った。」
「・・・うん。」

一度強く抱き締めるとアスランはキラを離し顔をあわせた。

「おなかすいてるかと思って、向こうの部屋に食事用意したんだけど。いる?」
「いる!」




部屋を出ても暗い。
寝ていた部屋よりは明るいが廊下の明かりは最小限しかない。

神殿も質素だったけど…。

神殿に引き取られる前の自分の家でのことも棚に上げてキラは忙しなく周りを眺めた。
よく知っているようなそうでもないようなでもなんとなく知っている。
そんな印象を受ける建物だ。大きいのは良くわかるが。

いや、そんなことよりも…。
ここ、・・・どこ?
何処かのお城…?
でも神殿の近くにあるお城なんて王城ぐらいしかないし。
王城はもっと豪奢だろうし…。


「ねぇアスラン?」
「ん?」

少し前を歩いているアスランにキラは呼びかける。

「聞きたい事があるんだけど…。」
「…分かってる。でもご飯を食べてからにしよう。
そういってアスランはドアを開ける。
開けた先にはずらりと用意された食事。
「わぁ。」
よくよく見るとキラの好きなものばかりで感嘆のため息をついた。

相変わらずアスランは…。

村に居たときからこういことでキラを甘やかすことがあった。
そう思ってキラは少し背の高いアスランをチラリと見上げる。
それに気がついたアスランがとてもやさしく微笑むので思わず目を逸らしてしまった。

照れてる場合じゃないって!!

自らを叱咤するがかといって笑顔に免疫が出来るわけではない。




食事中は沈黙。
アスランは食事が終わらなければ本当に話してくれないらしく、黙々と料理を口に運んでいる。
キラはチラリと何度もアスランを見るが反応はない。
おなかもすいていたし、料理もおいしい。
これ以上ないもてなしなのだがよく分からない今の現状にもやもやしたものがたまる。


ここがどこかなのかは分からないけど…。
なんとなく予感がある。

三年前と何一つ変らない姿。
許させたものしか入ることが出来ない神領地に入れたこと。
そこからここまで追われる気配なく来れたこと。

そうであると仮定すればすべてが納得がいくが信じがたいことではある。

でも、神が確かに居るのならば…。
それはこの世の中に存在するのではないか。
世界でもっとも悲しい存在。

「キラ?」
「え?」

物思いに耽っていたキラはアスランの呼びかけに目を覚ます。

「どうした?食事、進んでないみたいだけど。」
「あ、あぁうん。なんでもない。さすがに多いかなぁって…。」
「あぁ、すまない。キラの好きなものをと思ったらこんなことになってて…。」
「ううん!!すごく嬉しいし、本当においしいから!ありがとう。」
「なら、・・・いいんだ。」
「うん。」


・・・このままアスランは何も言わないつもりなんだろうか…?
答えてくれる風ではあったけど、それが今かどうかすら分からない。
なんだかんだ言ってはぐらかすところがあるし・・・。
キラは一つ息をつく。

言わないならこっちからきかなくちゃ。
アスランを選んだのだから。
受け止めなくてはならない。

「・・・・ねぇ?」
「なんだ?」
「ここどこなの…?」
「直球だな。」
アスランは苦笑いして受ける。
「まどろっこしいのは嫌だから。」
キラははっきりと言い切った。
「相変わらずだ、優柔不断のくせに決めた途端強気。」
「アスラン!」
非難するように名前を呼ぶとアスランは先ほどと同じよう様に苦笑いで応える。

なんでなにもいってくれないの?

キラは始めこそなにも言わないアスランをにらんでいたがだんだん悲しくなって泣きそうになった。

「キラ…。」
「ねぇアスラン、僕じゃダメなの?ならなんでこんなところまで連れてきたの?ひどいよ何も言わないなんて。」
「・・・・。キラ。」
「寂しすぎるよ…。」

最後のほうは半泣きになりながらキラはつぶやいた。

「泣かないで…。」
アスランはキラを優しく抱き締めた。
「誰のせいだよ…。」
少し強くアスランは抱き締める。
「ねぇアスラン・・・!」
「っ・・・・。」

キラは顔をあげて正面にあるアスランを逸らさず見つめる。
アスランは一度泣きそうな顔をするとキラの肩に頭を乗せてをきつく抱き締めた。
キラからはアスランの顔は見えない。
けれども発せられた声はとても苦しそうなものだった。


「悪魔・・・なん・・だっ…。」